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 今月24日のフランス大統領選挙で再選を果たした中道のマクロン大統領は早速、6月に予定される国民議会(下院)選挙に向け、右派、左派両陣営から強い圧力を加えられています。マクロン氏が恐れるのは政府と議会にねじれが生じ、政権運営が困難になることです。

 大統領選第1回投票で21%の得票率を得て3位につけた急進左派・不服従のフランスのメランション候補は首相の座をめざして始動しました。右派の選挙といわれた今回の大統領選ではメランション氏以外は選挙運動の供託金も没収される5%以下の得票率で大敗しました。

 社会党、共産党、緑の党など左派勢力は、メランション氏に対しては弱い立場に追い込まれ、メランション氏は6月の国民議会(下院)選挙では、左派統一候補擁立で過半数の議席を制すれば、自分が首相になると意欲を見せています。無論、社会党も共産党も抵抗中ですが。

 一方、決選投票でマクロン氏に敗れたものの過去最高の41.46 %(前回、33.90%)の得票率だったマリーヌ・ルペン氏率いる右派・国民連合(RN)は、下院での議席獲得に意欲を見せています。右派勢力が協力すればルペン氏が首相になる可能性もあります。

 マクロン氏は勝利演説の中で「多くの国民が極右に投票した理由となった怒りや意見の相違に対し、答えを見つけなければならない。それが私と、私の側近の責任だ」と言明し、右派勢力が軽視できない存在になったことを自ら認めています。

 右派支持者の注目する貧困層の支援、治安対策などで市民に寄り添った政策を実施することを約束しています。マクロン氏が頼りにする5年前の下院選挙ではマクロン氏が立ち上げた中道の共和国前進(REM)は5年前の下院選挙で圧倒的多数の議席を獲得して圧勝しました。

 ところが、マクロン氏の強引ともいえる首脳での改革で批判され、反政府の黄色いベスト運動の抵抗に遭い、REMは今では議員の離党などが増え、過半数を割り込んでいる状態です。そうなると中道のマクロン政権に協力できる政党を探さなければ、政権運営は危うくなります。

 今回の大統領選の結果を受け、世界中のメディアは「極右のルペンが選ばれなくて良かった」と安心感が漂っています。欧州連合(EU)のミシェル大統領もマクロン氏に安堵の祝辞を送りました。ところが実際のフランス国民は4割以上がルペン氏に投票したわけで、極右を意識して投票したのかといえばそうではない現状が浮かび上がっています。

 報道に携わる私個人は早い時点で極右という言葉は使わず、右派に変えました。理由はルペンの父親で国民連合の前身、国民戦線(FN)を創設したジャンマリ・ルペン氏とは食事もしたことがあり、彼は確かに極右といわれても仕方なかったと思いますが、娘のマリーヌ・ルペンは違っているからです。

 無論、RN支持者の中に極右的考え方を持っている有権者はいます。しかし、そもそも激しい移民排撃政策から極右といわれたFNは、実は人種差別主義の国粋主義ではありませんでした。党幹部の中には妻に日本人もいて、追い出したいのは、フランスの伝統的価値観を尊重せず、むしろ破壊しようという移民だけでなく、伝統軽視のリベラル勢力でした。

 父ルペンと食事をした時、彼は食事しながらも共産主義の悪口を言い続け、筋金入りの反共主義者だと分かりました。伝統的慣習や価値観を否定するのは移民だけではないということです。当然、リベラル派である左派が支配するメディアはルペン親子を敵視してきました。特に大革命で王政を葬り去ったフランスですから、リベラル勢力は強烈です。

 彼らはFN以来の怨恨もあり、娘が率いるRNに対しても「危険な極右」「愚かなポピュリスト」のレッテルを貼り続け、フランスの政治の世界から何とか葬り去りたいと考えているわけです。しかし、フランス人を幅広く取材すると、ルペンの主張を正しいと思う人は少なくないことに気づきます。

 マリーヌ・ルペン氏は3回、大統領選に挑戦していますが、毎回、投票日の前年の調査で大統領になってほしい候補者のトップになっています。フランスは革命を断行した理想主義の国なので建前は人種差別も宗教差別もない自由と平等、友愛に満ちた国をめざしています。

 そのため、多様な人種で構成されるフランス国籍者について、人種構成を正式調査することはしていません。フランス国籍を取得すれば肌の色も宗教も関係はないフランス人だという建前があるからです。そのため犯罪白書にも実際にはアフリカ系移民の犯罪者が多くても数字としては出てきません。憲法上、出してはいけないからです。

 ところが市民は日々、移民系住民による犯罪に晒され、最近ではウーバータクシー、ウーバーイーツで車や単車事故が急増し、その運転手の多くがアラブ系なのに、内務省は大半がアラブ系などとは絶対にいいません。テロが起きればルーツとして実行犯の詳しいデータは出てきますが、それでも人権に配慮し、メディアは慎重です。

 しかし、フランスがアラブ系移民の急増と長期化で、確実に「フランスがフランスでなくなっている」と感じる人は増え続け、当然ながら移民政策の見直しや治安対策で明確なメッセージを出すルペン氏が支持されるわけです。外国人である私でさえ、30年間見てきて今は最も社会が荒れており、その原因に明らかに移民問題があると感じます。

 フランス国内でも保守系週刊誌レクスプレスなどは「今やルペン氏はマージナルな極右ではなく、国民連合は政権政党をめざせる条件を整えている」と指摘しています。ところが左派の代表格の日刊紙ル・モンドやリベラシオンが極右、ポピュリストと書き続けるので世界のメディアはそれに追随しているのが現状です。

 フラン人有権者は常にバランスを取ろうとして、大統領と首相の政治信条が真逆のコアビタシオンを何度も経験しています。たとえば欧州議会選挙ではRNはフランスでトップです。統一地方選挙でもRNは確実に伸長しています。つまり、使い分けているともいえます。

 日本のメディアもそんな事情は無視し、極右のレッテルに乗っています。そしてリベラルメディアは「極右の台頭は民主主義の危機」とまで言っています。この指摘は最初から論理が破綻しているとしか言いようがありません。左派のキャンセリングカルチャーの方がよほど言論封殺の民主主義の破壊者だと思います。