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 パリ・リヨン駅に毎日到着するウクライナ避難民

  国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の発表によれば、戦禍のウクライナから国外に逃れた避難民が500万人を超えたといわれています。自宅から逃げでウクライナ国内で避難生活を余儀なくされている人たちを合わせれば1,000万人を超えているといわれます。

 500万人はウクライナ周辺国、特にポーランドが最大の受け入れ先ですが、フランス、スペイン、イタリアなど距離の離れた南欧でも避難民は急増しています。欧州連合(EU)への加盟を求めているウクライナからの避難民を受け入れているEU加盟国は原則、親族や知人が自国にいる場合を優先的に受け入れていますが、別のニュアンスもあります。

 それは白人であること、ドイツなどは220万人を超えるロシア人、ウクライナ人がすでに定住していること、旧中東欧諸国の多くはウクライナ人と同じスラブ系民族であること、さらにウクライナ正教はキリスト教の一派でEU諸国と価値観を共有していることです。

 もちろん、私がフランスで取材したパリ・リヨン駅に毎日到着するウクライナ避難民や彼らを受け入れている仏西部レンヌにある県庁前に並ぶ避難民を見ると、今は特別な雰囲気が感じられます。しかし、1カ月も経てば、フランスに住むスラブ系移民同様、溶け込んでしまうでしょう。

 この新たな事態に不快感を持っているのが、フランスの人口の1割に達するといわれるアラブ系移民です。彼らの中には移民して何十年経っても国が定めた規則を無視し、頭にスカーフを巻きつけたり、全身を覆うブルカを着用するイスラム女性がいます。なぜかその数は増えています。

 彼らは北アフリカのアルジェリア、チュニジア、モロッコなどの北アフリカのアラブ圏からの移民が主ですが、加えて旧植民地の中東レバノン、シリア、イラク、アフガニスタンの内戦を逃れてきたアラブ系の人々もいます。さらに中央アフリカなどからの黒人移民もいます。

 肌の色だけでなく、骨格も異なるアラブ系の人々の多くはイスラム教徒で、欧州がかつては十字軍をシリアなどに派遣してイスラム圏と戦い、歴史的に彼らの拡大を拒み続けてきた地域からの移民です。 

 今、欧州でキリスト教の価値観を前面に出す国は多くはありませんが、ウクライナ避難民の方がはるかに欧州に馴染んでいるといえます。それも彼らが悪い意味でリベラル化が進んだ西ヨーロッパに比べ、キリスト教の保守的感がを持っていることに好感する人も少なくありません。

 仮にEUがウクライナを加盟国として受け入れれば、避難民はEU市民となり、域内のどこでも自由に住み、無期限に働くこともできるようになります。ロシアの反発を恐れるEUがそうするかは疑問ですが、準市民となるのは容易です。それに彼らにはイスラム過激派のようなテロを行うリスクもないでしょう。

 実は2015年のシリア内戦でEUは約100万人の難民を受け入れ、その主な受け入れ先はドイツでしたが、結局、差別に苦しんでシリアやトルコに引き返した難民も少なくありませんでした。受け入れに積極的だったメルケル前首相もドイツ内での難民が引き起こすトラブルから批判されました。

 デンマークなど、もともとアラブ系移民に嫌悪感の強い国は、ウクライナ避難民を積極的に受け入れるのとは相まって、アラブ系移民をこの機に減らしたいという加盟国の動きもあります。同じ戦争難民でもEUにとってはウクライナ避難民はウエルカムというのはダブルスタンダードと批判する声もあります。

 いずれにせよ、労働人口を補うために移民を受け入れざるを得ないEUとしては、テロを引き起こすような移民は排除したいところです。メディアは移民排撃を極右のシンボル的な政策としてきましたが、ウクライナ避難民の急増でEUの移民政策は新たな局面を迎えているといえるかもしれません。