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 2019年8月に先進7か国(G7)首脳会議が開催されたフランス南西部、ビアリッツをこのブログで紹介したことがあります。その時、筆者がパリで仕事場兼住居として借りていたアパートのオーナー、マダム・フシェが本宅をビアリッツ、時々、パリ住まいというライフスタイルをしていることを書きました。

 コロナ禍でパリから地方に移り住む人々とが増え続けるフランスで、新しい言葉が生まれました。地方に広い庭付き一戸建ての本宅を持ち、パリには短期ステイのための小さなワンルームマンション(フランスではステュディオ)を持つデュアルライフを選んだ人たちの呼称がパリュローと命名されました。

 フランスではパリに住む男女はパリジャン、パリジェンヌといい、地方の場合は、たとえばリヨンに住む男女はリヨネ、リヨネーズと呼んだりします。また、地方に暮らす人をまとめてruraux(リュロー、複数形)といったりもします。パリュローはその造語です。

 パリュローたちは住宅も物価も高いパリを嫌って、広々した庭、豊かな自然に囲まれたテレワームの仕事部屋も確保できる広い家を買い、時々、本社のあるパリに出社する生活をしています。これはコロナ禍特需で、テレワークが一気に進んだおかげです。

 実はそんな生活は、まったく新しいわけではなく、たとえば、マダム・フシェは25年も前から実践しています。かくいう私も長年、パリと仏西部ブルターニュ地方のレンヌ郊外を行ったり来たりしています。そういえば自分もパリュローだなと最近思いました。

 フランスの優れている点は総人口は日本の半分の6,600万人なのに、平野の可住面積は日本の10倍あり、世界の人口密度ランキングでは日本は28位と高く、フランスは80位で、さすが大陸なので窮屈感はそもそもありません。パリ市を出て郊外に行けば一気に自然が広がっています。

 今は30代から40代の子持ちのパリュローが急増し、2021年には、パリュローの入門書『Les Paruraux(レ・パリュロー)、半分パリジャン、半分地方暮らし』が仏日刊紙Le Parisienのジャーナリスト、マリオン・クレンプ氏とイラストレーターのミカエル・プリジャン氏による共著で出版され、ベストセラーになりました。

 当書が指摘するパリュロー生活の必須事項は、「Wi-Fi」環境と「近くにパリ行きの駅があること」だと書いています。それだけではなく、車で20分以内の大型ショッピングセンター(サントロ・コマーシャル)があることや、子供がいる場合は学校、さらには病院、郵便局、警察の駐在所なども必要です。

 コロナ禍でテレワークが加速し、地方移住が増えたことで、過疎化した村が移住者呼び込みに活気づいています。過疎に苦しみ、学校、郵便局、警察駐在所が消えて死に体だった小さな村は新参者を大歓迎。日本でよくある地方の閉鎖性は見られず、そのことはパリュロー入門書にも書いています。

 無論、コロナ明けで会社によっては社員の会社への通勤を要求する場合も増えていますが、政府はむしろテレワークを奨励しています。デジタル化で人口が地方に分散することは地方活性化だけでなく、少子化対策にもつながるからです。これは欧州連合(EU)も本腰です。

 フランスは移動インフラが整備され、気軽に車で知人と乗り合いで長距離移動する習慣もあります。私が往復するパリ、レンヌ間は約310キロで、高速列車TGVだと約1時間半、車で3時間弱なので車で移動する人も少なくありません。道路インフラが整備され、混雑もほとんどありません。

 最新のアンケート調査では、地方移住を希望するパリ市民は9割に上るそうです。理由の中にはパリで移民が増えすぎてルールを守らない住民が多く、治安も悪化しているのでパリ脱出を考える住民がパリュローになりたがっているという側面もあります。

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