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 イタリアのセルジオ・マッタレッラ大統領は21日、マリオ・ドラギ首相の辞表を受理したと発表し、予算審議と重なる10月上旬までに解散総選挙を行う公算が大きいと地元メディアは報じました。そこで世論調査で次期首相に浮上したのは、女性でなおかつファシスト党とも呼ばれる党の党首です。

 そもそもイタリアの政治不安定は世界に知られており、「どうしてそうなるの?」と不思議に思われています。欧州連合(EU)内でも「またか」といわれるほど政権が目まぐるしく変わるカオスにイタリア人も慣れているといわれれいます。

 そのイタリアでは、前欧州中央銀行総裁のドラギ氏率いる現政権が挙国一致内閣といわれ、中道左派の民主党、中道右派のベルルスコーニ元首相率いるフォルツァ・イタリア、さらに左派ポピュリストの五つ星運動、右派ポピュリストの同盟まで左右の幅広い政党の連立政権でした。

 コロナ禍で経済危機に陥る中、経済のエキスパートの重鎮ドラギ氏の指導力が期待されましたが、次期選挙をにらんだ勢力争いが表面化し、結果的に道半ばにして解散総選挙の流れに。

 イタリア議会は20日、ドラギ氏が上院(定数321)で内閣信任投票に臨み、賛成95、反対38で信任されましたが、先週の信任投票を棄権した5つ星運動に加え、今回は同盟とフォルツァ・イタリアの右派2党も投票を拒否し、事実上、政権は崩壊し、同首相は辞任の意思を固めました。

 先週14日にもウクライナ危機による物価高騰に対してドラギ政権は対策法案を提示しましたが、議会では5つ星運動が信任投票を拒否し、ドラギ氏は辞意を表明。マッタレッラ伊大統領は物価やエネルギー価格高騰を受け、政治空白を好まず辞任を拒否した経緯があります。

 ドラギ氏は政権立て直しで今回の信任投票に臨み、長々とした演説で各政党の協力を呼びかけましたが、結果、連立政党離反がとまらず、ドラギ氏は21日、マッタレッラ大統領に2度目の辞意を表明し、受理されました。イタリア再生で期待されたドラギ政権は1年半足らずで退陣に追い込まれた形です。

 議会の解散権を持つマッタレッラ大統領は、過去の政権崩壊時や首相辞任時には連立組み換えや挙国一致政権の発足により、前倒しの総選挙を回避してきた経緯がありますが、残念な結果に。

 イタリアの憲法規定では、議会の解散から70日以内に総選挙を行う必要があり、来年春の議会任期満了を待たずに9〜10月に総選挙を前倒しすることに。イタリアで年後半に総選挙が行われるのは第2次世界大戦後初です。

 そこで最新の世論調査では、主要政党でドラギ政権に参加していないイタリアの同胞(右派ポピュリスト)が20%台前半でリードし、ドラギ政権を支えた民主党が僅差で追っている形です。同盟(旧北部同盟)とフォルツァ・イタリア、イタリアの同胞など右派の統一会派を結成させられれば、議会の過半数確保が視野に入ると見られます。

 一方、ドラギ氏を支えてきた民主党と五つ星運動の間には決定的な亀裂が生じており、結果的にEU懐疑派の右派ポピュリストが率いる連立政権が誕生する可能性が高まっています。

 そこで次期首相の最有力候補と目されるのは、かつてベルルスコーニ政権でイタリア史上最年少の閣僚(青年相)に就いたジョルジャ・メローニ女史。同氏は第2次世界大戦時のファシスト指導者ムッソリーニの側近や支持者が結成したイタリア社会運動の流れを汲むイタリアの同胞の代表です。

 女性でなおかつファシスト党と呼ばれる政党の党首が、次期首相になると、イタリアは英国がEUを離脱して以降、27加盟国中、ドイツ、フランスに次ぐ3番目の大国なので、当然ながらその影響は大きいといえそうです。

 特に連立政権に強気な右派の同盟、イタリアの同胞などEU懐疑派が政権運営すれば、ウクライナ危機がもたらしたエネルギー危機、物価高騰で景気後退局面にあるEUで全加盟国の結束が、EU3番目の大国が主権を主張し、EUの方針に反旗を翻すことで揺らぐ可能性も否定できません。

 そんなEUにほくそ笑んでいるのは、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席といえそうです。プーチン氏は天然ガス供給でEUに揺さぶりをかけ、習近平氏はEUの不安定国に債務の罠を仕掛ける可能性が高まっています。

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