Chateau Louis XIV
   ルーブシエンヌの「ルイ14世城」

 ウクライナ危機がもたらしたエネルギー危機で、にわかに世界第2位の石油埋蔵量を誇るサウジアラビアが存在感を示しています。7月15日にはバイデン米大統領がサウジを訪問し、5月にはトルコのエルドアン大統領がサウジ訪問しました。さらに6月にはサウジの実質的最高権力者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子がトルコを訪問しました。

 そして今回、サルマン皇太子が27日にフランスを公式訪問し、28日にマクロン仏大統領と首脳会談を行いました。今回、パリのオルリー空港到着後、サルマン氏が向かったのは、自らが所有するパリ西郊外のルーブシエンヌにある豪華なシャトー。

 17世紀にヨーロッパの貴族社会に君臨した太陽王と呼ばれたルイ14世が建てた世界で最も豪華なヴェルサイユ宮殿を模して建てられたのがルーブシエンヌの「ルイ14世城」。同シャトーは2015年にサルマン皇太子が購入し、米誌フォーチュン誌は当時、「世界で最も高価な邸宅」と報じました。

 床面積が7000平方メートルのこのシャトーは、2015年の非公開の買い手が2億7500万ユーロ(現レートで約380億円)で購入し、その後、購入者はサルマン皇太子だったことが判明しました。

 それより衝撃的なのは、実はこの建物は2018年10月にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で殺害されたサウジ人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の従弟のエマド・カショギ氏が設計したものだということです。米情報機関は今でもカショギ殺害を承認したのはサルマン皇太子としています。

 事件から3年9カ月が経ち、ロシアのウクライナ侵攻で事態は大きく変わりました。アメリカ、フランスを含む西側諸国も、自国を殺害現場で使われたトルコも、サウジとの関係は完全に冷え込んでいました。しかし、化石燃料の高騰で事態は一変、影響力を持つサウジと西側諸国やトルコは急接近し、人道問題は横に置いてエネルギー、安全保障問題に取り組む流れです。

 ただ、マクロン氏と会談するサルマン氏の訪仏に合わせ、2人がエリゼ宮殿で会う数時間前に、3つの抗議運動集団がカショギの拷問と殺人の共犯の皇太子を被告として刑事告訴しました。原告の中のアラブ世界の民主主義(夜明け)は、当時、サルマン氏は起訴の免責特権を持つ国家元首ではなかったため、起訴は可能と主張しています。

 マクロン氏はサウジ批判してきた西側大国の中では昨年12月にもサウジアラビアの都市ジェッダでサルマン氏に会っており、今回もヨーロッパ全体が直面する問題を解決するために「フランスのすべてのパートナーと話し合うことが重要だ」と会談を正当化しました。

 マクロン氏はアメリカのバイデン氏同様、石油価格高騰を抑えるため、サウジに石油増産を迫っていますが、それだけでなくサウジを含む中東諸国およびトルコが、ロシア制裁に加わっていない現状を変えたい狙いもあります。

 サウジが国際社会で存在感を強めている姿は、経済危機に陥れば、最初に横に置かれるのが人権問題という悲しい現実を見せつけています。それにウクライナ戦争で漁夫の利を得ようという国はサウジだけではありません。

 とはいえ権力者が自分に都合の悪い人間を殺害する行為は許すべきではなく、そんな国に頼らない状況を作り出すべきですが、化石燃料依存はそうはいかず、代替エネルギーへの転換が急がれるところです。

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