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  アレクサンドル・ドゥーギン

 プーチンの頭脳と呼ばれ、プーチンの野望を支えるイデオローグといわれるロシアの哲学者アレクサンドル・ドゥーギンの娘、ダリア・プラトーノワ(29)が、モスクワ郊外の道路での爆発により死亡しました。自動車に仕掛けられた爆弾による暗殺事件の可能性があり、本当の標的は父、アレクサンドルだったとの見方が濃厚です。

 そうだとすると、プーチン大統領は今のウクライナへの軍事侵攻を含め、東西冷戦終結後、じわじわと燃え盛る民族主義であるユーラシア主義による拡張主義を支える思想家が、何者かの攻撃の標的になったことになります。それは結果的にロシアの安全が脅かされ、プーチン氏にも脅威です。

 現在、60歳のアレクサンドル・ドゥーギンは、冷戦終結後のロシアにおいて、自由と民主主義、資本主義、グローバリゼーション、個人主義といった西洋リベラリズムに真っ向から反対する思想家です。彼は20世紀に敗北した共産主義やファシズム、21世紀に支配的となった自由主義に代わる第4の政治理論であるネオ・ユーラシア主義を主張しています。

 さすが共産主義を中華思想の具現化に利用するだけの中国と違い、世界観、国家観、政治体制の普遍的価値観を正面から追求する国であるロシアのイデオローグというべき人物です。ドストエフスキーやトルストイを生んだ国のポスト冷戦のロシア的アプローチは、ソルジェニーツィンに代表されえる思想的葛藤の中にあることを感じます。

 1度、血を流す社会主義革命に踏み切った歴史を持つロシアは、中身は違っても革命を実行したフランスと共通するものがあります。今のウクライナ侵攻は非難されて当然ですが、プーチン氏が単に腕力だけで思想信条の欠けた暴君でないことが伺えます。

 非常に強い情念を持つことで知られるロシア人であることを考えると、プーチンの頭脳といわれたドゥーギン氏の娘の殺害のインパクトは非常に大きいといわざるを得ません。当然ながら、何らかの報復も考えられるだけでなく、プーチンの心はさらに頑なになり、第3次世界大戦のリスクも高まる可能性まで考えられます。

 殺害されたダリア・プラトーノワはジャーナリストで父親の思想の支持者だったといわれています。事件はドゥーギン親子がロシアの詩人アレクサンドル・プーシキンがかつて滞在したザハロヴォ邸で土曜日の夜に開催された「伝統」と題された集いに参加し、父の講演後、2人が同じ車で会場を後にする予定が何らかの理由でドゥーギン氏が別の車で移動したことで娘が犠牲になったと報じられています。

 「プーチンのラスプーチン」とまで呼ばれたアレクサンドル・ドゥーギンの娘の死は、今後のウクライナ情勢に暗い影を落としています。ウクライナは関与を完全否定していますが、ロシア外務省のスポークスウーマン、マリア・ザハロワ氏は英テレグラムへの投稿で、ウクライナとのつながりが見つかった場合、それは「国家テロ」に相当すると述べています。

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