turtleneck fashion

 日本のビジネスマンは海外で「どうして日本人は過労死するまで長時間労働するのか」と問われることは多い。そんな時のポピュラーな答えは「日本人は完ぺき主義で、仕事に対する責任感が強いので、結果を出すために最後までやろうとするから」だ。

 それもこの答えはネガティブではなく、ポジティブな意味での説明で、実は質問者の疑問の意味が分かっていない。本当は家族を含めたプライベートな生活を犠牲にしてまで長時間労働、過重労働する日本人の労働観に呆れての質問なことに気づいていないケースが多い。

 そこには働く目的が本来、生活の質を高めるためにあるにも関わらず、その生活、つまりプライベートな生活を犠牲にしてまで働けば本末転倒になるという認識がある。まさか働くことが人生の中心などと考える人はいないと思って質問しているわけだが、それなら「日本人は仕事が大好きで働くことに大きな満足感があるから」と答えた方がいいかもしれない。

 最近、日本で30年間働き、今は自分の国に帰国しているイタリア人に会ったら、彼は周囲のイタリア人から「お前は働きすぎだ。すっかり日本人になってしまったな」といわれることが多いという。異文化でスタイルシフトは避けられないが、本人は「日本恐るべし」と思ったそうだ。

 不確実性が高まり、変化が読めない時代に突入した今、個人的に密かにフランス人の対応力に感心している。たとえば2002年に導入された週労働35時間制は20年の時を経て、かなり柔軟になった。導入当初、工場ではシフトを組むことに苦慮し、ホワイトカラーも不在の時間が増え、「この国は終わりだ」と経営者が不満を漏らしていた。

 しかし、20年も経つと、今の新しいトレンドは働く時間と場所を自由に選べる企業に人気が集まっている。コロナ禍を経験し、リモートが増えたこと、その間に都会を抜け出した人が急増し、優秀な人材ほど場所と時間を自分で選べる企業に人気が集まるようになった。

 短時間で高収入という要求は変わってはいないが、柔軟な働き方ができない職場は人気がない。この柔軟性はあちこちで見られる。今、フランスでは政府がエネルギー危機に対応するため省エネを呼びかけ、節電を奨励している。個人主義といわれるフランス人だが、結構、真面目に受け止めて実践する人は多い。

 政府は室内温度をこの冬は19度に設定することを奨励している。すると半年は冬というフランスで、室内ではTシャツ1枚が普通だったのが、今ではセーターなどを着る友人は増えている。「別に窮屈で動きが鈍る外套を着るわけじゃないし、外が5度なのに家の中は25度はやりすぎ」という友人も増えた。

 もう一つは、タートルネックが流行りだしたことだ。マクロン仏大統領は最近、ショルツ独首相に会うのにスーツの下はタートルネックだった。コールド・ビズというところだが、暖房費を節約して暖かい物を着る柔軟対応は支持されているようだ。

 生活の質を高めることに限りなく心血を注ぐフランス人と思いきや、今は変化に柔軟な方が評価されている。つまり、自分で無理にハードルを上げ、見栄を張るよりも、現実にしなやかに対応して生きる方がはるかに利口ということだ。

 周囲ばかりを見て、皆に合わせて生きる堅苦しさよりも、柔軟さは個人の自由が優先されるフランス文化の次の形といえるのかしれない。