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 世界がますますカオス化し、混迷が深まるように見える現在、たとえば米中対立に終わりが見えず、ウクライナ紛争の終結も見通せず、コロナ禍の完全終息も未だ実感できない状態です。自由と民主主義のシステムは中国が掲げる21世紀型社会主義や権威主義の挑戦を受け、対立が絶えない日々です。

 そんな時だからこそ、ポジティブ思考を保ち、レジリエンス力を高める必要があるわけですが、人間は生きている間に経験によって価値観が固定化し、その価値観が通用しないことで逆境に対する免疫も回復力も持てない場合が多くといえます。いわゆる出口が見えない状況の長期化が懸念されます。

 ビジネススクールで人気のあるポジティブ心理学では、逆境を乗り越えるレジリエンス能力を高める要素として自己認識、自制心、精神的敏速性、楽観性、自己効力感、人間同士のつながりが一般的に挙げられています。私もフランスのビジネススクールで教鞭をとっていましたが、ビジネススクールは先天的なスキル(性格を含む)より後天的に習得可能なスキルに注目しています。

 たとえば、私は非常に悲観的になりやすいとか、何に対しても楽観的というのは先天的性質が多くを占めています。しかし、たとえば戦争や度重なる人生に降りかかった不幸でトラウマができ、悲観的性格になったとすれば、後天的にできた負の要素をできるだけ取り除き、楽観的になることもできるという考え方もあります。

 アメリカでポジティブ心理学が発展した理由の一つは、歴史の長いヨーロッパや日本、中国では悪い経験があまりにも長い歴史で重みを増し、簡単に悲観論から脱することが難しいのに対して、歴史の浅いアメリカでは容易にポジティブ思考を得られる環境にあることも指摘しておかなければなりません。

 迷路に陥りやす人生ですが、レジリエンス能力を高めるには、自分のアイデンティティを強化し、自己管理能力を強化し、ネガティブな心理モードに入った時に俊敏に対応し、人とのつながりで出口が見えてくることもあります。これが折れない心を作る要素というわけです。

 中でもネガティブモードを形成するのは、一般的には心の中に生じる不安や焦燥感情ですが、感情の裏にあるものを分析し、原因を客観視し、整理する必要があります。その分析方法は、ポジティブ心理学では、A=Adversity(逆境)、B=Belief(思考、思い込み)、C=Consequence(結果として生じる感情や行動)の頭文字をとって、「ABC分析」と呼ばれています。

 中でもBは、くせ者で、人間は多くの思い込みの中で生きており、人生長くなればなるほどレジリエンス力は低下していきます。理由は、その経験から来る思い込みを頼りに生きるようになり、思い込みを書き換えられなくなるからです。これを臨床心理学では認知のゆがみといい、いわゆる「思考の罠」です。

 この思考の罠が、自分を責めたり、責任転嫁したり、間違った斟酌をしたり、最悪の事態を招く予想しかできなくなったり、無力感に陥ったりさせることになるわけです。アンガーマネジメントに出てくる「べき論」も思い込みの一種です。

 陰謀説などに引っ張られる人の多くは、自分の人生が思うようにいかない経験をたくさんした人が多いといわれています。その経験で書き込まれた思考の罠によって、何でも何か裏で悪魔の手が動いていると思いたがるものです。

 実は有害な思い込みや固定観念を脱する方法の一つに、まったく自分の常識が通じない異文化との接触があります。自分の思考やコンテクストは、自分が気づかないうちに人生で刷り込まれたものです。自分が経験したことのない全く異なった環境の人と接すると、ABC分析でいえば、思い込みを客観視でき、新たなヴィジョンが見えてきたりします。

 今、ダイバーシティのシナジーの有効性が指摘されていますが、思考の罠から解放され、ゼロべース思考で新たな地平が見えてくるために大きな効果があるというわけです。