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 ウクライナで人道支援活動を長期に渡って行っていた英国人男性2人の死亡が伝えられました。2人は家族に頼まれて高齢女性を救出するために東部ドネツク地方の激戦地ソレダルに向かう途中、砲弾を受け、死亡したと英BBCは伝えました。

 1人は英コーンウォールのトゥルーロ出身のパリー氏(28)で、地元コーンウォールのBBCラジオのインタビューで「この戦争で荒廃した地域から子供たちを救出することができることは、私が想像できる何よりも価値のあること」と語っていたそうです。

 BBCは「彼は昨年3月、ロシアの侵略が始まった最も厳しい時期にウクライナに引き寄せられ、最も困っている人々を助け、400人以上の命と多くの捨てられた動物を救った」と伝えました。一方、ニュージーランド在住の英国人科学者のバグショー氏(47)は、昨年4月以降、ウクライナで人道支援活動を続けていたそうです。

 英国政府はウクライナへの渡航は危険すぎるとして行かないよう勧告していますが、誰も止めることはできません。ですが戦争は早期解決がなければ、善良な人々の命がけの支援があっても悲劇を止めることはできません。すでに1万人のウクライナ人の子どもがロシアに移送されたという報道もあります。

 人はどうすれば、残虐になれるのか。過去の歴史から学べるものは権威的国家主義や民族主義によって優劣を争い、相手の国や民族を同じ人間と見なさなくなった時に人は限りなく残虐になるといわれています。中国の新疆ウイグル族を残虐な方法で同化させようとするのも、漢民族の優位性と支配意識に基づくものです。

 欧米諸国が権威主義に極めて否定的なのは、歴史の蛮行をくり返さないためです。それなのに中国やロシア、イランは権威主義を疑うことなく信じています。韓国も民族主義に極めて肯定的で、日本との優劣に強くこだわっています。

 困難に直面した人々を死も覚悟して助けようという精神は、その真逆にあるもので、今回亡くなった2人の英国人について、メディアは無私無欲の人間だったと評しました。与えることを忘れる精神がなければ、見返りのない支援活動を長期に行うことはできないでしょう。

 一方のウクライナは、受けた恩は永遠に歴史に刻み忘れないでしょう。

 ドイツは、ようやく出し渋っていた高性能の主力戦車レオパルト2を供与する方針を固めました。プーチン露大統領を刺激し過ぎないよう慎重姿勢を崩さない西側諸国、戦争に巻き込まれたくないという各国の保身が戦争を長期化させています。

 誰がやらなくて私はやるという精神を持つリーダーがいない限り、この戦争の終結は望めないでしょう。綱引きの集団心理と同じで、1人くらい手を抜いても分からないだろうという心理が働けば、勝つことはできません。

 特に今、リーダーシップが期待されるドイツのショルツ首相の煮え切れない姿勢は、目の前で戦争が起きている大国とは思えないものです。

 ドイツのキール世界経済研究所の集計では、昨年1月24日〜11月20日の主要41カ国・地域・機関のウクライナへの総支援額は1,131億ユーロ(約16兆円)で、1位の米国は478億ユーロで全体の42%を占め、突出しているとしています。

 表明済みの軍事支援と金融支援、人道支援の合計で2位が欧州連合(EU)関係機関で350億ユーロ。3位英国(71億ユーロ)、4位ドイツ(54億ユーロ)と続く。日本(6億ユーロ)は13位。

 しかし、国内総生産(GDP)比では1位がエストニア(1.1%)、2位はラトビア(0.93%)で、ポーランド、リトアニアが続き、西側大国では英国が最も多く、ドイツ、フランスは、GDP比で0.05%を下回っている。つまり、戦争の危機に晒されるウクライナの隣国を除けば、プーチンへの慎重な姿勢を崩し始めたのは、ごく最近の話です。

 ただ、戦車供与までの時間を考えると、ロシアが猛攻撃を2月に開始すれば、それを阻止する手段はないのかもしれません。