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       エリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン

 フランスの美術界は、明らかに意識的に女性に注目している。それも美の対象としてではなく、美のクリエーターとしての女性の活躍に光が当てられ、さらにも美術館トップに女性が起用され、まさに時代の転換期を示しているる。芸術界の女性への熱い眼差しは過去にないレベルに高まっている。

 この欄でも紹介したが、まず、2021年9月、世界最大規模のパリのルーヴル美術館の館長にロランス・デカール氏が就任。彼女はジャーナリストで作家のジャン・デカール氏の娘であり、小説家のガイ・デカール氏の孫娘。パリ大学ソルボンヌ校とルーヴル美術館付属大学で美術史を学び、キュレーターと美術史家の2つの顔を持つ。

 彼女は、すでのパリのオランジュリー美術館、オルセー美術館の館長を務めたキャリアを持ち、文化遺産の国際協力担当相に就いたジャン=リュック・マルティネス館長の後任となった。大改装後のルーヴルで若者にも魅力的な美術館づくりに取り組んでいる。

 同年、フランス元老院(セナ)が所有するパリのリュクサンブール美術館では「女性画家、1780年―1830年」展が開催された。リュクサンブール美術館は同じリュクサンブール公園内に位置するフランス元老院が国立美術館協会に運営を委託しており、今回は女性の社会的地位や権利向上が政治的に注目される中、選ばれたテーマだった。

 中でも大革命前のアンシャンレジーム期の最後の十数年間、女性画家は前例のない注目と同時に男性王室画家らの抵抗の中にあった。その中心にいたのがマリーアントワネットの肖像画家として知られるエリザベート=ルイーズ・ヴィジェ=ルブランで、同特別展の中心に据えられた。

 同展のタイトルが「闘いの起源」とされていたのは、文字通り男性中心の美術界に女性が進出する闘いの起源を探る展覧会だったからだ。大革命を前後して数奇な運命を辿った女性画家たちは皆、苦労の連続だったし、男性と同格に扱われることもなかった。この展覧会がフランス美術界に転機を与えた。

 2022年に入り、同じリュクセンブール美術館では、19世紀の終わりから20世紀初頭に活躍した女性画家たちの役割に焦点を当てた「パイオニア 狂騒の20年代のパリの芸術家」が開催された。フランスの芸術界が近年、いかに芸術と女性の関係を丁寧に再考しているかを物語るもので、時代はフランスが解放感に酔いしれた狂騒の19世紀末から20世紀初頭が舞台だった。

 時はエコール・ド・パリの時代、活気に満ちていた芸術界には、シュザンヌ・ヴァラドン、タマラ・ド・レンピッカ、ソニア・ドローネー、タルシラ・ド・アマラル、シャナ・オルロフなどの先駆者たちは、パリの美術学校を通過し、芸術家として認められ、スタジオ、ギャラリー、出版社を所有した。

 女性が自ら選ぶ権利を行使した最初の時代であり、美術学校の講座で裸体を表現したのは女性だった。同展の説明では彼らは自分たちに課せられたセクシュアリティによる伝統的義務を抜け出し、結婚するか否かを含め、体当たりで選択の自由を主張したフランスで最初の女性パイオニアだった。

 にもかかわらず、彼らは巨匠の仲間には入らなかったし、エコール・ド・パリの主役には、せいぜい、マリー・ローランサンが入ったぐらいだった。フランスで女性参政権が認められたのは1945年だったことを考えると、女性芸術家たちの登場が社会を変えるまでに40年は掛ったことになる。

 2022年後半には、パリのガリエラ美術館で「フリーダ・カーロ、外見を越えて」展が開催され、今年3月まで開催されている。メキシコの画家として世界的に有名なカーロの作品だけでなく、生涯身に着けていたメキシコの民族衣装や障害のある体を支えるためのコルセットやギブスまで展示されている。

 フェミニズム運動の視点では、パレ・ド・トーキョーでスイスのフェミニスト現代画家、ミリアム・カーンの「私の連続思考」(5月14日まで)が開催中だ。ストリート・アートにも挑戦した彼女の大胆な表現作品は、今の時代に再評価されている。

 そして興味深いのは、没後50周年を今年迎えるピカソの特別展が今年、世界中の42か所で開催予定だが、これに合わせ、ピカソの女性遍歴について否定的な評価を下す論評がメディアを賑わしていることだ。実際、彼は若い時からモデルとなった女性と同棲し、時には複数の女性と交際していた。

 問題なのは、その大半の女性がピカソと別れた後に自殺を含め、悲惨な運命を辿ったことだった。彼は実際、晩年の作品で自分をギリシャ神話に出てくる獰猛なミノタウロスに譬え、美しいミューズを食い尽くす存在として表現している。つまりは一人の男としては女性に有害な人物だったというわけだ。

 芸術家は女性の人権を侵害しても例外扱いだったが、ハリウッド映画だけでなく、芸術家の巨匠も#MeeToo運動の標的にされている。女性芸術家の再考だけでなく、女性を美の食い物にするような時代が過ぎ去り、新たな時代が到来することを期待したい。