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フランス本土とドイツにおける2022年の準電力生産量 出典:仏エオコロジ―移行省


 待ったなしの地球温暖化対策、今年も南ヨーロッパでは干ばつや山火事が発生し、日本でも豪雨による被害が全国的に広がり、気候変動に歯止めがかからない状況が続いています。専門家の中にはすでに手遅れという見方も出てきており、2050年までに脱炭素化では「住めない地球」になる可能性もあるかもしれません。

 無論、気候変動を全て温暖化ガスのせいにするのは間違いという専門家もいますが、その数は如実な気象異常の連続で確実に減りつつあります。同時に頼みの綱となる再生エネルギーについても、ドイツのようにエネルギー源比率が高い国でも、気象異常への効果を疑問視する声もあります。

 その問題はプラスチック汚染同様、温室効果ガス排出量が圧倒的に多い中国を初め、アメリカ、インド、ロシアの取り組みが地球の行方を左右するわけですが、簡単ではありません。

 中国は国力増強のために2酸化炭素排出を断念する気配はなく、特に石炭依存も継続中で、米中は経済戦争中、インドも経済発展に温室効果ガス排出やむなしという状態です。ロシアは国際社会そのものから孤立し、協力的ではありません。地球規模の危機が迫る中、地球の分断が対策の遅れに繋がっています。

 フランスのマクロン大統領は2037年までに試運転を行う6つの欧州加圧水型炉(EPR)と他の8つの新しい原子炉の建設目標を掲げ、さらに小型モジュール炉(SMR)の実現を目指す計画も含め、国内のみならず、国外のグローバルマーケットへの積極的な拡大も推進しています。

 国内のエネルギーバランスでは原発に7割依存するフランスですが、ロシア産天然ガスへの依存度は17%で2030年までに電力用をゼロにする方針です。

 EUは2022年6月、2035年の化石燃料車の新規販売停止、脱炭素の取り組みで低所得者層の負担を軽減するための数百億ユーロ規模の基金創設を盛り込んだ気候変動対策の法案で合意しました。原発ゼロをめざすドイツは、ロシア産天然ガス供給の減少分を石炭発電で補う方針を出しており、原発増強をエネルギー源交換の埋め合わせとするフランスとは対照的です。

 ヨーロッパ内は、ウクライナ紛争でエネルギー調達でロシア依存との決別を迫られる一方、2050年の脱炭素化に向けた圧力にも晒されています。オックスフォード・サステナブル・ファイナンス・グループの調査によると、再生可能エネルギーとヒートポンプに巨額投資することで、EU全加盟27カ国は5年以内にロシアのガスから解放される可能性があるとの調査結果を明らかにしました。

 フランス政府が難題があっても原子炉増設に舵を切った背景には国内の送電事業者であるRTE(Reseau de Transport d'Electricite)が、2050年およびそれ以降の脱炭素化に向けた電力システムの長期展望の「Energy Futures 2050」の報告書があります。

 それによると2060年のフランスの電力システムにおいて需要を基準シナリオ(中央シナリオ)で想定した場合には、原子力50%と自然エネルギー50%の電源構成で電力を供給することが最もコスト効率的と結論づけています。

 同想定の電源構成では原子炉の運転期間の延長に加えて、14基の大型原子炉と数基の小型モジュラー炉の建設を前提にしています。マクロン大統領の昨年発表した計画は、RTEのレポートを参考にしたと見られています。

 基本的にはフランスは少なくとも天然ガス依存度を下げながら、温室効果ガス排出量の少ない原子力発電、再生エネルギーの組み合わせのエネルギーミックスが目標達成に近づく最良の合理的選択としています。

 一方、今では悪名高いノルドストリームのパイプラインでロシア産天然ガスに依存してきたドイツはウクライナ紛争ぼっ発後、原発ゼロにこだわるため、石炭火力発電を復活させ、2050年の脱炭素化に向かう方針を打ち出しています。

 フランスの選択は2021年秋に英国グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 (COP26)の合意による2030年までの10年で、温室効果ガス排出量の多い石炭火力発電や化石燃料から減らしていく方針に合致するもので、ドイツは原発ゼロの政治的判断が優先された形です。

 実は背景に、両国が戦勝国と敗戦国だった古い歴史が影響しています。日本もドイツと似ていますが、戦後、戦勝国に封じ込められた日独は、冷戦でも中途半端な位置にあり、経済優先で漁夫の利を得てきた過去があります。結果、生き延びるためにどこからでもエネルギー供給を行う慣習が身につき、日本はイランからの原油、ドイツはロシア産天然ガスに依存してきました。

 戦勝国の1員と思っているフランスは、戦後は独立主権国家として核武装し、原発でエネルギー自給率50%を達成していますが、日独はまったく異なった道を歩んできました。

 ウクライナ紛争であぶりだされた戦後の古傷は、エネルギー政策にも大きな影響を与えているように見えます。ただ、世界で何が起きても独立主権国家として生き延びていく意思の固いフランスは、不安定で激変する世界には参考になるといわざるを得ません。