日本は今、大きな分岐点に差し掛かっています。さまざまな数字が日本の衰退を示す中、イノベーションを繰り返し、既得権益を破壊し、何度も衰亡の危機を乗り越えてきたアメリカを見習うのか、それとも重く長い歴史の重圧から抜け出せず、国際社会で発言力を失いつつある欧州大国のようになるのか、正念場といえそうです。
先進7か国(G7)の中で、唯一アジアの国の中でキリスト教的価値観を持たない日本は、明治以降の発展も独特ですが、決定的なのは普遍的価値観を持っていないことです。自由と民主主義、法治国家、人権思想、公正、正義という普遍的価値は西洋の借り物過ぎず、男女平等も借り物です。
他の先進国と肩を並べる公平な社会を築く中、日本は環境対策では優等生ですが、実際の温室効果ガス排出量では、中国、アメリカ、インド、ロシアの後を追う多さです。それはともかく日本が先進国の中で顕著な遅れが指摘されるのは女性管理職比率の低さです。
北欧を除けば、今フランスはその比率が高い基準に到達しています。それも筆者が30年前にフランスに引っ越した時、女性の管理職比率は20%を割っていました。それが45.3%(2021年)に増加したのは男女平等を促進するための法律や、並々ならぬ努力があったからです。
有名なホフステードの国民性指標では、男性中心社会で日本は世界でも突出しています。中国やベトナム、タイなどの他のアジア諸国と比べても低い比率で、同じような数値は同じ儒教文化の強い韓国くらいです。
実はバブルがはじけた1990年代初頭、世界も冷戦終結で大きな変化が生じた時代に日本は生活面での豊かさを追求しましたが失敗しました。理由は生活の質を高める意識の高い女性を管理職として登用しなかったからです。それから30年以上経っても状況は変わっていません。
安倍政権で女性活躍が日本経済の活性化に不可欠として成長戦略に組み込まれましたが、未だに女性管理職比率は12.6%という低さです。政府内閣の女性閣僚比率の低さも驚きです。経団連の考え方で驚くのは、男性同様なプロセスを踏むことで女性が管理職に登用されるのが基本としていることです。
ここでいう男性同様のプロセスは、衰退が止まらない企業の復活に大きな効果を上げるダイバーシティ効果の一つが女性管理職登用と考えられていないことを意味します。悪く言えば、男性同様に上司にゴマすりし、男性管理職の面子を大切にする女性しか管理職になれないことになります。
世界の最新のリーダーシップモデルは部下を支援し、スキルを向上させ、部下が自律性を持って成果を出すことを導くことです。腕力が物を言うようなリーダーシップ、権威主義的リーダーシップ、部下を育てないリーダーシップは機能しないとされています。
機能しなくなったリーダーシップは、皆、男が作ったもので、北朝鮮の金正恩やロシアのプーチン、ワグネルのプリゴジンのような野蛮な人間が持っているもので、誰も幸せにはしません。女性脳の力を借りることは問題解決の鍵を握っています。
女性が登用される意味は、女性が最も重視するワーク・ライフ・バランスのライフの質向上がビジネスに反映されることです。これこそ、1990年代に失敗した豊かさを取り戻す内容です。少子化の原因の1つも管理職をめざす女性が結婚できるような労働環境でないからです。
女性管理職比率を高めることは、レジリエンスにとって核をなすものです。政界も財界も日本の後退が止まらないのは男性中心社会だからです。虚勢と面子、競争心、権威に彩られた野蛮な文明を卒業するためには、経団連が考えるような男性の論理では、到底、実現することはできないでしょう。

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