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 今、日本は最も苦手な状況に直面している。それは得意技の風と空気を読んで方向を決めることがきわめて困難な時代に差し掛かっているからです。つまり、読むべき風も空気も不確かで正しい結論を出すことがほぼ不可能になっている。

 ウクライナ紛争がもたらした世界秩序の崩壊の先が全く見えにことに始まり、この20年は度重なる金融不安、為替の不安定化、コロナ禍によるグローバル化の挫折など、投資家が嫌う不透明感に覆われています。アメリカにさえ従っていれば間違いない時代も終えんを迎えている。

 特に世界の安定の前提条件とされた核保有国のモラルをロシアが無視したことで、世界は今、第2次世界大戦以降、最大の危機に直面しており、被爆国日本が味わった悲劇と苦痛が地球上のあちこちを襲う可能性が高まっている。戦争の悲劇だけでいえば、ウクライナでは夫婦や親子が引き裂かれ、誘拐されて兵士として利用する子供数が2万人を超えているという。

 そんな時代にありながら「何もしない」ことは死を招くと思われます。最も必要なのは人間の行動を突き動かす心があるかどうかだが、多くの人々は悲劇に無関心を装っています。

 ビジネスの世界もそうだが、リスクを恐れていれば何も生まれない。この期に及んで風や空気を読むことだけに集中する愚かさは避けたいところです。考える内容は山ほどある。最も危険なのはネット上などで嘘の情報をもとに作り上げられた物語で人を扇動したり、洗脳したりしようとする勢力に騙されないこと。

 例えば、社会主義者が資本主義の間違いを批判する時、実は使われるデータは嘘が多い。私の地元フランスでは経済統計学者のトマ・ピケティが新星のように現れ、富裕層は限りなく富裕層になり続け、一般サラリーマンは永遠に富裕層入りはできないという自説を展開し、彼自身政治的には社会党を支持している。

 アメリカはそもそもピケティに批判的だが、スウェーデンの資本主義支持の学者兼作家のヨハン・ノーバーグ氏は「フォーブス誌のランキングを見ると、1982 年の億万長者 400 人のうち、20年後に残ったのは彼らの相続人 69 人だけ」「裕福な家庭の軌跡をたどってみると、二世代目で資産の約7割が目減りしていることがわかる。3世代目以降は最大90%の富が消滅する」と指摘しています。

 フランスは確かに階層社会で富を握る層に流動性が低いと見られているが、それでも既得権益を持つ富裕層が安泰という事実はない。新しい技術を生み出したものが富裕層に浮上し、そうでない者は消えていくことを歴史は証明しているとノーバーグは指摘しています。

 味方による違いでいえば、例えば、広島の知事は原爆の日の基調演説で、ロシアが核兵器使用を大国への威嚇、脅迫に使っていることで核抑止理論は崩壊したので、核廃絶しか選択肢がない」と述べたのに対して、核武装推進派は「核抑止の理念が崩壊したのではなく、今こそ日本も核武装の選択しかない」と反論しています。

 しかし、核抑止理論が崩壊している事実を利用して、両者は自分に都合のいい主張をしているだけにしか見えません。一方は理想主義、他方は現実主義というだけで問題解決の議論にはなっていません。

 今は課税や空気を読むのではなく、自分自身で考え抜く力と決断力が問われる時代だと思います。プーチンは悪い意味で新たな風と空気を作っている。そこには主体的意志と野望があります。対抗する側にも強い主体的意志とヴィジョンが必要でしょう。それが西側にないことが今、危機を招く最大の原因になっているように見えます。