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 パリ市に隣接する南東郊外のアルフォーヴィルの中学校の教室に、警官が現れ、いじめ加害者容疑の中学生が逮捕されるという前代未聞の出来事が起きました。おりしも政府がいじめとの断固として戦いを表明し、9月の新年度から校長と自治体首長に加害生徒の強制転校の権限が与えられた同じ月に起きました。

 嫌がらせをした学生を逮捕するために警察が中学に突入したことは、「学校は社会の中でも閉ざされた聖域と考える一部の保護者や学校管理者に衝撃を与えた」(仏週刊誌レクスプレス)と報じました。

 日本なら少なくとも担任が校長室に連れて行き、生徒の目に触れないところで逮捕したかもしれません。フランスもかつてはそうでしたが、校内暴力が激化し、高校では凶器をもったテロに関わる生徒が出現し、学校と警察は連携を取るようになっていましたが、いじめでは初めてのケースとなりました。

 実は今回のいじめ加害者と被害者は別の中学校に通っていました。クリテイユ検察当局によると、被害者の15歳のトランスジェンダーの女生徒に対して、加害者の14歳の男子生徒はトランスジェンダーに対する嫌悪から「彼は性的指向を理由に、殺害の脅迫と意図的な精神的暴力の容疑で送致された」との説明がありました。

 同件はすべて基本、ネット上で起き、被害者の親が学校長に直接相談していました。警察の対応は非常に迅速だったとされますが、背景には9月の初め、パリ西部郊外のポワシーで15歳の生徒ニコラ君がいじめを苦にして自殺した事件があったことが考えられます。

 この自殺が注目されたのは長期に渡るいじめに苦しむ両親が学校に何度も訴えたにも関わらず、教育委員会から非常に冷淡でむしろ両親を脅迫するような文面の手紙が教育委員会から送られていたことでした。この手紙が公開され、アタル国民教育相は「恥ずべき手紙」と強く非難しました。

 いじめをないことにしようとする姿勢は日本も似ていますが、教育委員会は休み時間中に校庭でしばしば起きた肉体的暴力を伴う被害届を、基本的に学校の責任と認めませんでした。

 フランスは昨年3月、急増するいじめによる自殺が政治問題化し、いじめを刑事犯罪と位置づけ、罰則として実刑の刑務所収監や罰金を定められました。教育委員会が隠ぺいしようとしても警察が迅速に対応する法改正が行われました。フランス、いじめ厳罰化「加害者を転校させる」背景

 果たして警官が授業中の教室に入ってきて生徒を逮捕するのが適切かどうかは意見が分かれるところですが、少なくともいじめ抑止に繋がるのは確かです。時には命を絶つまで追い込み、いじめのトラウマが一生消えない行為は、整えられた環境で教育を公平に受ける権利を奪っているのは事実です。

 日本では加害者の将来を考え、加害者の名前を公表することも少年法で守られ、結果的に被害者が泣き寝入りするケースは本人が自殺しても見過ごされるのがほとんどです。成長途中の未成年者とはいえ、犯罪者として責任を問うのは被害者から見れば当然といえるでしょう。

 フランスも日本同様、いじめに蓋をしてきた過去はありますが、今、フランス教育界は過去にない本腰を入れているといえます。