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 パレスチナの武装イスラム組織ハマスがイスラエルに対して数先発のロケット攻撃を行うと同時にイスラエル内にも地上侵攻し、数百人のイスラエル人を拉致したと報じられています。イスラエル側も大規模な空爆を繰り返し、現地メディアの報道では双方の死者は1,000人を超えると報じられています。

 武装勢力との衝突によるイスラエル側の人的被害は、2006年にレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラと交戦した時を上回る近年で最悪の結果です。今後も日々刻刻と事態は変わっていくことでしょうし、グローバル企業は注意深く見守っています。

 無視できないのは、ハマスがいら立つのはパレスチナ自治区に次々にイスラエルの入植者が軍に守られながら住宅を建設していることにあります。米英仏などが入植行為の停止を訴えてもイスラエルは言うことは聞きません。ハマスは近年、エジプト経由で武器を調達、イランの支援を受けて、より高度な軍事作戦が可能になったと指摘されています。

 欧州最大規模の600万人とも言われるアラブ系移民社会と約60万人といわれるユダヤ社会を抱えるフランスでは、パレスチナとイスラエルの緊張が高まるたびにフランス国でも双方の間で衝突やテロが起きています。

 フランス内務省はイスラエルへの渡航を控えるよう勧告を発しただけでなく、フランス国内でもユダヤ礼拝堂シナゴーグやユダヤ人学校、ユダヤ文化センターなどユダヤ権益の警備強化を行っています。これは今回のハマスの攻撃以前から、テロがユダヤ歴に伴う行事に合わせて起きていることから9月中旬以降、強化されていました。

 第一次湾岸戦争以降、イスラエルを数度訪問し、取材してきた筆者にとって、あるいはフランスの治安分析官を30年近く続け、私の周辺にユダヤ人がいることもあって、日本人の中ではこの問題に身近に向き合ってきたといえるかもしれません。

 ある時、パリからアムステルダムに向かい電車の車中で向かいの座席に座ったアメリカ人旅行者とイスラエル問題を話したことがあります。50歳前後のアメリカ人としては珍しい国際情勢に詳しそうな彼は、私がジャーナリストだと知ってパレスチナ問題をどう見ているか聞かれました。

 私は、そもそも紀元前から流浪してきたユダヤ人がイスラエル建国で、三大陸の結節点に位置し、エジプトを始め激しく領有権が争われたイスラエルの地を自国として再建したが、そこに2000年以上住むパレスチナ人を追い出すことの正当性は、中東では今でも認められておらず、大いなる疑問があると答えました。

 そのアメリカ人旅行者は「ヨーロッパで日本人からそんなコメントを聞くとは思わなかった」と驚かれたことが記憶に残っています。その数年後、米9‣11同時多発テロが起き、その時はテロの首謀者がテロ実行の合言葉として「グラナダの悲劇を繰り返すな」と発したことが報じられました。

 800年近く、イベリア半島を支配したイスラム勢力は、キリスト教勢力に敗北し、それを象徴するのがグラナダの大虐殺です。イスラム教徒が西洋ユダヤ・キリスト教世界に抱く恨みの原点です。戦後は、その主戦場はパレスチナに移り、ユダヤ教とイスラム教の対峙を背景に象徴的な場となっています。

 私は車中で出会ったアメリカ人に世界の言論界を支配するのは、ユダヤ人ジャーナリストではないか、事実、ユダヤ人がパレスチナ人に1人殺されてもニュースは世界に配信されていると指摘しました。困惑気味のアメリカ人は「日本人からそんなことを言われるとは思っていなかった」と言っていました。

 四国と大して変わりないイスラエルの中で起きる衝突は国を再建したユダヤ人にとっては聖地であるだけに重要です。今はウクライナ紛争を見て冷戦以降に構築された世界のフレームワークが崩壊の危機にあり、ハマスも領土問題への世界の無関心による風化を恐れ、大規模な攻勢に踏み切ったと見るべきかもしれません。

 はっきりしていることは、ユダヤ人によるヨルダン川西岸の植民地化はもはや引き返せない段階に達し、30年前のオスロ合意は骨抜きになったことで、パレスチナは牢獄と化し、その領土は日々縮小され、希望が失われていることです。結果、許すことのできないハマスの暴力行為が加速しています。

 ところが西洋ジャーナリズムはパレスチナに同情することなく無関心を装い、外交的解決の道は閉ざされています。西洋メディアはハマスの卑劣行為は熱心に非難する一方、壁に閉じ込められたパレスチナ人を理解する報道はありません。オバマ元大統領が世界の警察官を辞めることを宣言して以来、中東和平から手を引いた結果、パレスチナは完全に置き去りにされました。

 日本には関係のない話と受け止められるかもしれませんが、コロナ禍のグローバル化の再始動でグローバルビジネスを行う企業にとっては無縁の話ではありません。中東の石油に依存する日本は、アメリカとイランの関係悪化がエスカレートすれば、ホルムズ海峡の封鎖により、日本も深刻なエネルギー危機に見舞われる可能性は消えていません。

 状況悪化が長期化すれば、他の領土問題を抱える地域に飛び火し、ウクライナ危機以上の悪影響を与えるかもしれません。欧米列強の抑えが利かない今、国連も機能不全に陥っており、世界経済への影響は深刻になる可能性は高まっています。