外国人旅行者1億人超えをめざすフランスは文字通り不動の世界トップの観光大国です。その間、何度もエッフェル塔はテロ組織によって爆破予告を受け、2025年には300人を超える犠牲者を出した大規模テロが起き、今年は年金改革反対抗議デモ、ラグビーW杯中の高校教師殺害事件でテロ警戒レベルは最高位に高められています。
パリ中心部オペラ座にほど近いところで長年、美容院を経営している店主は、週末になると黄色いベスト運動の抗議デモで店を閉めらずを得ず、それが治まったらコロナ禍に襲われ、外出禁止令で商売ができず、それが終息したら、年金改革の抗議デモ、さらに今ではイスラエル・ハマス戦争の抗議デモと、「自分でも店を続けられているのが奇跡」と語っていました。
観光でいえば、多くの飲食店がコロナ禍で店をを閉めざるを得ない状況で、コロナ明けでの外国人観光客が押し寄せる中、今度は人手不足で対応に苦慮する状況が続いています。
仏経済紙トリビューンは、今回の観光ビジネスの状況について「2023年の夏のシーズンは、すでに良い兆しが見られた2022年よりも少し良くなるはずだと政府は予想。それにもかかわらず、インフレとホテル料金の高騰により休暇の費用が上昇し、フランス人はヴァカンスに慎重にならざるを得なかった」と指摘。
「したがって、彼らは海岸よりも山や田園地帯を好み、ホテルよりもキャンプ場や個人間のレンタルを好み、外出は特にレストランに限られ、滞在期間も短くなった。この夏は外国人観光客が大量に戻ってきたことも特徴で、今年は記録的な収入が見込まれる」と総括しています。
同紙は「外国人観光客は2023年に最大670億ユーロをもたらす可能性がある」と書きました。日本の1.5倍といわれる外国人観光客がもたらす利益は莫大です。それでもフランスの全産業に占める観光産業がもたらす収益は1割を下回っています。
では、テロでもコロナ禍でも暴動でも抗議デモでもフランスが持つ底力は何でしょうか。そこには日本人が見落としやすい観光ニーズの多様性があります。そもそもフランスで人気の高い南仏は、例えばニースのプロムナード・ザングレ(英国人の散歩道)のように、かつて英国の富裕層が開発した場所が多く、全て長期滞在型リゾートです。
そこに太陽の恵みの少ない北ヨーロッパの人々が大量に訪れる状況は変わっていません。東南アジアでも、例えばマレーシアのペナン島は外国人富裕層が長期滞在型リゾートを求め、発展してきた世界的観光地です。アジアには帝国主義に時代に欧米列強によって開発されたリゾート地が多くあります。
働きバチの日本人にはそもそも縁のない数週間の滞在が基本のリゾート地は、同時に別荘地帯であり、本宅をそこに移す人々も多いのが特徴です。つまり、多くの世界的な観光地の究極目的は魅力的な住環境を提供することで、そのための街づくりがされています。
日本だと東京に近い熱海で老後を過ごす人はいますが、ヨーロッパではコロナ禍に生まれたデジタルノマド(リモートワークの移動型)が、ポルトガルやスペイン、南仏が人気を集めています。
日本人の休暇の取り方は、せいぜい3,4日で、それも観光地を駆け足でめぐり、観光地見物と食べること、買い物することに集中し、近年、ようやく心と体を休めるとことを目的とするリゾート開発が進み、収益を上げ始めている観光立国元年に入った状態です。
フランスは30以上の世界遺産、歴史遺産、多様で奥の深い食文化、世界的に評価の高いワインや宝飾、香水などの化粧品、モードなど観光資源になりそうなものが世界でダントツにあります。それらを日々磨きながら魅力を絶やさない努力を重ねています。
数年前のグローバル観光企業の調査で、フランスは世界で最も接客態度が悪い国の汚名を着せられました。おもてなしを自慢する対極にあり、カフェやレストランの接客係の不愛想は有名です。にもかかわらず、年間1億人に迫る外国人観光客を集める理由は、心と体を休める町づくりを怠らなかったからで、それは国民も必要としていることだからです。
いっぱい観光商材を並べて観光業を活性化するのではなく、訪れた観光地が「住んでみたい魅力」を放っているかどうかが重視されているわけです。つまり、温泉などの観光商材を利用して金儲けするだけの考えでは、持続可能な発展を実現する観光地にはならないということです。
京都の町屋、金沢などの旧家が並ぶ街並みは、外国人にとっては住んでみたい魅力があるからです。生活の質を高めるより、働くことが重視されてきた日本では、考え方そのものを転換しない限り、1億人の観光客を集めるのは無理でしょう。
私の郷里、別府では、他の観光地との差別化でクリエーターに住んでもらい、面白い街づくりをすると意気込んでいますが、全く主客転倒した芸能の世界の発想です。別府が住みたい町として魅力を放てば、結果として観光客も増えるわけで、クリエーターを客寄せパンダに利用するなどとんでもない勘違いです。

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