イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザへの本格侵攻を開始し、ガザ市民の犠牲者は1万人に達するのは時間の問題でしょう。私の見方はイスラエルの政治が極端に右傾化し、ポピュリズムに支配されたことに最大の原因がると見ており、それが出口を失う結果をもたらしていると見ています。
参考:東洋経済オンライン「日本人が知るべき反ユダヤ主義拡散の深い背景 安部雅延
2022年12月下旬、イスラエル史上最も極右かつ宗教的な政府が発足しました。
ネタニヤフ首相とリクード党が率いる政権は、連立を組むユダヤ教超正統派や宗教政党など連立6党で構成され、財務相として「パレスチナの村せん滅」など過激な発言で知られる右派「宗教シオニズム」のリーダー、ベザレル・スモトリッチ氏が入閣しました。
閣僚の中にはヨルダン川西岸のパレスチナ自治区へのユダヤ人の入植を推進する政策を主張する人物は他にも多くいます。その中心にいるのが宗教シオニズムを掲げる極右政党の連合「宗教シオニズム/ユダヤの力」が2021年3月の選挙で議席を倍以上に増やし、発言力を強めたことです。
シオニズムとは古代ローマ軍にパレスチナを追われて以来、世界各地に離散していたユダヤ民族が、母国への帰還をめざして起こした民族国家建設のための運動のことで、1948年のイスラエル共和国国家建国で目的を果たしたはずでした。
ところが彼らが満足する国家は道半ばで、ユダヤ教を受け入れないムスリムのパレスチナ人がいる限り、ユダヤ国家とはいえないとする右派が、パレスチナ弾圧を繰り返してきました。同時に右派はユダヤ教の世俗化を嫌悪しており、ユダヤ国民に対する引き締めも行っています。
ネタニヤフ政権が取り組む司法改革は、最高裁の判断を含む現在の司法のあり方をリベラルで世俗的過ぎるとする批判から生まれました。新政権は発足直後に司法制度改革案を国会に提出し、改革案の核となるのは、国会が過半数で最高裁の決定を覆すことができる「オーバーライド条項」です。
これは民主的な共和国ではなく、イランやサウジアラビアのような政府の上に宗教がある国家を目指すことになり、三権分立を弱体化させる条項と批判され、法曹界だけでなく一般市民には懸念が広がっています。反政府勢力は今年1月から週末になると、テルアビブなど各地で大規模な反対集会やデモが行われています。
ユダヤ教の価値観を全面に打ち出すネタニヤフ氏は、宗教上の理由によるLGBTQ+の人々に対する差別も擁護しており、イスラエルの最大の支援国アメリカの価値観とは相反します。自由と平等、公正さを重視するアメリカ、特にリベラルな価値観を追求する民主党にとって、宗教的価値観を全面に出すことには葛藤もあります。
一方、イスラエルは 2023年6月に5,000戸の新たな入植者住宅を承認しましたが 、これらはパレスチナ領土内の他の入植地と同様に、欧州連合(EU)、国連も国際法違反と非難しています。
そして7月、イスラエルは約2000人の軍隊を派遣し、 ヨルダン川西岸のジェニン難民キャンプへの大規模な襲撃で無人機攻撃を実施し、パレスチナ人12人が死亡、50人が負傷しました。これはつまり武力でパレスチナ人を排除し、入植を強力に進める行為で国際法に違反しています。
背景には、イスラエルに流入するリベラルで世俗化した文化に対する危機感もあったと思われます。誰も指摘しませんが、ガザ近くで開催された一晩中踊りあかす音楽フェスティバルは、イスラム教徒だけでなく、超正統派にとっても嫌悪すべきものです。参加者の若者がハマスの人質になり、殺害されても、イスラエル、ハマス双方には嫌悪すべき若者たちです。
異文化理解を妨げるのは固定観念や先入観と言われます。特に宗教の影響は非常に大きく、中でもユダヤ教、キリスト教、イスラム教は旧約聖書を共有する1神教で、それぞれが異なった世界観、普遍的とする価値観を持っています。
しかし、その対立の多くは相手に対する偏見や先入観が影響を与えました。そのいい例が旧約聖書に出てくる報復的正義を象徴する「目には目を、歯には歯を」という報復の正当化理論や相手との優劣を固定化する選民思想です。だから、イエスは汝の敵を愛せよと主張し、旧約の野蛮を終わらせようとしました。
今回のイスラエル軍によるガザでの無差別攻撃も「選民意識の強いユダヤ人は、パレスチナ人を人間以下の動物と思っているので、無差別殺りくに良心は痛まない」という指摘があります。ところがイスラエル国内でもパレスチナの一般市民殺害は即座に中止すべきと主張するユダヤ人もいて、むしろ支持する極右は多いとはいえません。
日本人には馴染みの薄い聖書は、旧約聖書と新約聖書に別れ、神の救いの摂理を説いているわけですが、決定的違いは新約聖書がイエス・キリストを救世主とする教えを説いている点です。
イエスを救世主として受け入れたのがキリスト教、イエスを予言者の1人とし、旧約聖書を中心としているのがユダヤ教、ムハンマドを最も偉大な予言者とするのがイスラム教です。神を創造主とする3つの宗教は、明確な世界観を持ち、それぞれがその教義の普遍性を信じ、人間の人生に大きな影響を与えてきました。
とはいえ、生きていくことそのものが困難を伴った時代から、科学と産業化社会の到来で、科学的、合理的でない部分は説得力を失い、宗教の影響力は弱まり、特に西洋では世俗化が進んできました。家父長制による女性差別は平等主義に変わり、LGBTQ+も容認の方向にあります。
これらの現象は、実は皆、旧約聖書に記録された内容に合致します。まず、旧約時代の神は神を否定する民族のせん滅を命令しています。モーセに与えた戒律を守らない人間にはむち打ちなど厳罰を与えています。今のイスラエル政府と似ています。
一方、リベラル派の動きは、神の意思に逆らい、バベルの塔を建設したり、戒律を無視して肉欲などの享楽に走る神に滅ぼされたソドム・ゴモラの町に似ていると超正統派や、急進的カトリック右派、福音派は避難しています。ムスリムの間では、もちろんLGBTQは禁止です。
つまり、歴史家が指摘する世界は国家や民族の勢力争いに明け暮れた19世紀に逆戻りしたというよりは、旧約時代に逆戻りしたように見え、せっかく積み上げてきた近代文明は滅亡の危機に晒されているように見えます。
世界で起きる戦争に今後、ロシアや中国が参戦すれば、誰も利益を得ることのないカオスの世界大戦に発展する可能性も消えていません。そのため、今後、最大限、単純で偏った感情に左右されるポピュリズムを蔓延らせない努力が必要だと思います。

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