われわれは毎日、イスラエルのパレスチナ自治区ガザで乳幼児を含む民間人の死の報道を見せられています。結果、どんなに欧米メディアがユダヤ寄りだとしても、その惨劇に心が揺さぶられ、パレスチナ人への同情は、親パレスチナデモとして世界に波及しています。
これは過激派組織イスラム国(IS)が勢力を一気に拡大した時との大きな違いです。世界中の虐げられた若者が聖戦主義に惹かれ、次々と戦闘員になる現象は起きましたが、IS戦闘員による斬首を繰り返す残虐行為の映像を見せられ、彼らを支持する国際世論は形成されませんでした。
ハマスはもともとガザ地区で苦しむ住民への人道援助から出発したことは、パレスチナ解放戦線(PLO)とは違っていたといえます。米ウォールストリートジャーナル(WSJ)は、なぜ、ガザの住民はイスラエル軍による大量虐殺の原因を作ったハマスに文句をいわないのかと疑問を呈しています。
そこにはハマスの巧妙な世論操作、イスラエルに虐げられるパレスチナ人への強い敵愾心があります。それはイスラエル政府が築いた高い壁で牢獄のようなガザ地区の中で醸成された成果です。われわれは国家を分離する壁が逆効果だったことを学んでいるともいえます。
ガザ住民に選択肢はありません。ハマスに反発してもイスラエルが迎え入れるわけではないからです。壁が民間人を窒息死させています。
ガザ住民の心から抜き取りがたい恨みが醸成され、冷静かつ客観的に情勢を見る目はなくなっているといえるでしょう。ユダヤ教にもイスラム教にも存在する報復の正義は、終わりのない憎しみの連鎖で殺戮を繰り返しています。
世界は一様、イスラエルの民間人の犠牲を厭わない度を越したハマスせん滅作戦に強い不快感を示しながらも、反ユダヤ主義も良くないとして二つの世論が存在します。この2つの矛盾する世論はハマスの世論操作とも大きく関係しています。結果、ユダヤ人は国際世論を味方につけることには失敗しています。
特にイスラエルのヨルダン川西岸のパレスチナ自治区への軍を派遣してまでの強引な入植を繰り返す国際法違反はイスラエル政府の評価を下げ続けています。つまり、そもそも75年前のイスラエル建国に同地域が同意していなかったことを今も引きずっている状態です。
実は今回のイスラエル対ハマス戦争は、各国に根本的な政治の変化をもたらしています。それが顕著なのは欧州最大のユダヤ社会、アラブ社会を抱えるフランスで、特に過去の政治的構図は崩れています。その典型が急進左派の不服従のフランス党を率いるメランション党首で、彼にとっては今回の出来事で踏み絵を踏まされたといえます。
100年前、フランスの急進的共産主義運動の中にはユダヤ人指導者が多くいました。メランションもその流れを知る人物でしたが、「メランションはイスラエルとの連帯を表明せず、イスラエルとハマスを同一視することでテロリズムを正当化することを選択した」と批判されました。
12日の反ユダヤ主義に反対する大規模な抗議デモにもメランションは傘下ぜず、逆に極右・国民連合のル・ペン氏や党首は参加しました。ハマスはここでもフランス政治の分断に成功したといえそうです。
ポピュリズムの風が吹き荒れ、冷静な判断より、その時々の感情で世論が移り変わりする時代をハマスはうまく利用しているといえます。ただ言えることは四国と同じくらいの小国イスラエルが発信する対立が世界の世論に大きな影響を与えている事実です。さらに国際社会は無力です。
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