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  ヤルデン・ゴラン・ハイツ・ワイナリーの「ブドウ畑

 かつてイスラエル北部ゴラン高原を取材したことがある。イスラエル政府の案内で同地に入る前に、車の中で「ゴラン高原で身の危険にさらされても自己責任」という書面にサインするよう求められ、緊張が走った。取材してほしいと頼まれて案内されたのに命は保証しないし、自己責任とは随分、調子のいい話とも感じた。

 実はゴラン高原はレバノンとシリアに国境を接した非常に危険な土地だ。レバノンのイラン系の百戦錬磨の過激派組織ヒズボラがイスラエルと対峙しているし、シリアに対してイスラエル軍が空爆する最前線にも位置している。ヨルダン川を見渡せる同地には軍事的監視塔があちこちに見られる。

 シリアとイスラエルが互いに領有権を主張し、今はイスラエル領土になっているが、停戦監視と両軍の兵力引き離し状況を監視する国連兵力引き離し監視隊(UNDOF)が駐屯している。日本も平和維持部隊(PKO)を派遣した経緯がある。

 ゴラン高原にはヤルデン・ゴラン・ハイツ・ワイナリーで醸造されているゴランワインがあり、世界的にも安定した高い評価を受けている。

 ユダヤ人でない私の前でワイナリーの責任者は「これは世界一神聖なワインだ。なぜなら、ぶどうからビン詰めまで、選民であるユダヤ人しか手に触れてないからで、製造過程で異邦人が触れたら、その場で廃棄している」という説明を受けた。

 日本でも各地方の地酒があり、お国自慢するものだが、聖なるワインというのはレベルが違う。世界に散らばったユダヤ人も祝日に飲んだりする。

 そもそもイスラエルが国際法に違反し、シリアの領地であるゴラン高原を支配し、ワイナリーまで作っていることを国連は容認していない。そこに最近、ユダヤ人入植者が増えており、特に超低党派に属するユダヤ人が武装して入植し、戦う姿勢を見せている。

 ゴラン高原の次に訪問した美しい港町のハイファもゴラン高原からは西に30キロの場所にあり、一見平和に暮らしているが、ヒズボラの攻撃対象でもある。仮にイスラエル北部の国境で本格的戦闘が始まれば、中東全体を巻き込んだ全面戦争になる可能性は高い。

 そもそもイスラエルにとって国際法よりタルムードの方が重要だし、イスラエル民族のために神が準備した土地という意識は強い。そもそもパレスチナ地方は旧約聖書に出てくるカナンと重なる「乳と蜜の流れる場所」と描写され、イスラエル民族にとっての「約束の地」だ。

 モーセの十戒では「人を殺すなかれ」とある一方で、神はカナン人を完全に滅ぼせと命令した。神父や牧師が読みたくない場面で、カナンの族長たちを集めて公開処刑したりしている。ユダヤ人とパレスチナ人の対立は根が深い。ユダヤ人のルーツ(イエス・キリストもユダヤ人)を持つキリスト教徒にとって、パレスチナ人は滅ぼすべき敵という側面もある。

 イエスは、旧約時代に繰り広げられた残虐行為を終わらせるため、全く異なったアプローチを持って登場した。それは「敵を愛し、許しなさい」「右の頬を打たれれば左の頬を出しなさい」と、許しと愛、寛容を説いた訳だが、実際には米9・11テロごのアフガニスタンやイラクへの報復的正義の実行は旧約時代そのもの。

 この旧約的正義を終わらせ、悪を憎んで人を憎まずの精神で多文化共存の道を探るのが21世紀のはず。ところが旧約の呪縛から抜け出せていないことが問題だというべきでしょう。