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 今年の日本の年末は、自民党派閥のキックバック問題(賄賂問題)で終わりを迎えそうだ。個人的に30年以上前、よく取材で出かけた政治家のパーティーを思い出す。選挙目当ての国会議員ばかりが批判されるが、「人間結局は金だ」という卑しい哲学が蔓延しているのは政治だけではない。

 金を与えて自分の都合のいい政治を行ってほしい団体や個人がいる以上、裏献金と言われても、その慣習を止める気配はない。東京五輪の公金横領もその慣習を熟知している政治家、広告代理店、マスコミ、自治体、建設会社などを裏金がうごめいて実現できたのも事実だろう。

 人間がいるところ、腐敗は世界のどこにも存在する。今、ウクライナの欧州連合(EU)加盟に向けた交渉開始で、ロシアよりのEU加盟国ハンガリーのオルバン首相が抵抗して、ウクライナ支援を含む支援パッケージの合意はできず、来年に決議は持ち越された。

 オルバン首相は悪者のように言われるが、彼は欧州が持っていたキリスト教の古い価値観を保持し、LGBTなどの何でもありのリベラル思想が西側から流入することを今でも警戒している。そのオルバン氏はウクライナのEU加盟反対の理由として、ウクライナの汚職問題改善がなされていないことを挙げている。

 西側先進国は、ウクライナに対して全面支援を2年近く続けているが、受け取るウクライナの政府高官の腐敗も指摘されている。まるで極貧のアフリカで国連の支援金が、ごく少数の権力者の懐に入り、国民は飢えている構図と重なるものもある。

 ロシアの激しい攻撃を受け、多数の死傷者を出しているウクライナでも、歴史的に政治腐敗の慣習は消えていない。国を守る国防相まで兵士の軍服支給で裏金を受け取っていたとして解任された。大義の陰で汚職ウイルスが蔓延するのは歴史の常と言えるかもしれない。

 最近、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)のコラムニスト、ウォルター・ラッセル・ミードがイスラエルを訪れ、和平の道に関して興味深いコラムを書いた。彼によれば、今でも可哀そうな被害者のように受け止められているパレスチナに対して、完全な世代交代と近代化を提案している。

 理由は、今の腐敗がまかり通り、古い統治体質を継続するパレスチナに対して、イスラエルは和平交渉する可能性はないからだ。二枚舌、三枚舌のパレスチナと正常な交渉をできる状況にないということだ。そこで提案は弱者の立場にあるパレスチナが襟を正すところから始めるべきだという提案だ。

 ガザもそうだが、現状は実は国連や人道援助団体からの援助漬状態にあるパレスチナ内の腐敗は出口が見えないほど重傷だ。たとえばフランスの影響を完全になくしたいマリやニジェール、ガボンなどフランスの旧植民地国で連続して起きるクーデターで政権移行が起きているが、実は彼らの本当の問題の核心は腐敗にある。

 ヒューマニズムの名のもとに弱者に届けられる援助が的確に本当に困っている人に届けられる前に腐敗で支援が届かない構図は、今では誰もが知っている事だ。大義のために腐敗の小事は止むをえないという考えは今でも、まことしやかに信じられている。

 しかし、本当にそれでいいのか。東日本大震災の復興資金の何割が、そういった腐敗の構図で、裕福な人々をさらに裕福にしたかを考えると、正直、怒りを覚えない人はいないだろう。

 政治もビジネスも、多少の汚職は黙認する社会慣習は、赤信号皆で渡れば怖くないということで、良心はマヒし、罪悪感もなくなる。大義名分で拠出される巨額の公的資金が、あっという間に頭の回る利権をむさぼる人間に利益をもたらしている。

 しかし、長い目で見れば、その腐敗は何も生まないどころか、それは負の遺産として個人や組織を回復不可能な暗闇に引きずり込んでしまう。中国では中国共産党幹部の要求に答えて手渡した賄賂が発覚し、痛い目を見た外国企業は少なくない。

 海外赴任研修で賄賂は渡すべきかどうかが話題になることもあるが、発覚した時のダメージは過去のいかなる時代よりも大きい。理由はSNSの時代、良いニュースより悪いニュースの方が数倍早く、大量に拡散するからだ。ESGの時代、悪い評価拡散は命取りになる。

 つまり、問題解決のカギを握るのは交渉力より、そこに潜む腐敗(がん細胞)を取り除く努力こそが重要ということだ。ウクライナもイスラエルも、あるいは自民党も、その視点に注目すべきと個人的には考えている。特に腐敗を除去できる最強ツールは、つまるところ人間の良心しかないはずだ。