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 今年は中国の武力行使が懸念される台湾の総統選を2週間後に控え、年末には米大統領選も行われます。一方は今、世界で増えつつある独裁的な権威主義勢力に飲み込まれるかを占う選挙であり、もう一方は、その権威主義勢力を抑え込めるかを占う選挙で、両者ともに民主主義の今後を左右する選挙です。

 中国の覇権主義は、過去十年間に明確になり、ロシアは民主主義陣営の西側諸国がありえないと考えていたウクライナ大規模侵攻を行い、イランはかつてない規模で中東に緊張をあたえ、北朝鮮はミサイル実験を繰り返しています。この10年間で露呈したのは意思決定の煩雑な民主主義の弱点です。

 民主主義を採用する西側が「経済と政治は別物」と呑気に構えている間に、権威主義国家は精鋭化した国家戦略を秘めながら、受けた経済的恩恵を覇権主義に最大限利用している状況です。言い換えれば、経済は政治によって支配されている国の方が、パワフルだということです。

 民主主義陣営は、SNSの時代にあって、民主主義に欠かせない民意に関わる意見があまりにも多様化し、統治そのものを困難にしています。一方、中華思想の中国、帝国主義に走るロシア、ペルシャの栄光の復興をめざす、イスラム国家イラン、金一族主義を貫く北朝鮮がグローバルサウスに与える影響は強まるばかりです。

 アラブの春で独裁強権を嫌い、民主化を目指した国々が成果を出せない中、迅速に行動でき、価値観を共有しやすく、統治が容易で結果が見えやすい権威主義、独裁政治に魅力を感じる国々は増える一方です。手間暇の掛かる民主主義の忍耐に耐えれない国々は権威主義になびいています。

 民主主義を脆弱にしている意思決定の煩雑さは本来、正しい選択肢を導き出すことにあり、間違いを課すリスクを回避するためです。しかし、攻めてくる権威主義の国々は待ってはくれません。ウクライナとイスラエルの戦争を終わらせられないのも国連を始め、民主主義の手法の結果ともいえます。

 自由主義陣営の2024年の課題は、行き過ぎた何でもありのリベラルズムによる社会の弱体化をどう抑えるかにあるかでしょう。ところがリベラル勢力は長年、権力や伝統に抗してきたことから、戦う戦力を持っているのに対して、保守勢力は当たり前と思うことを理論化できておらず、リベラルの前に無力です。

 しかし、そもそも保守、リベラルの対立軸は東西冷戦の置き土産で、多極化し、ダイバーシティが進む世界の中で意味を失っています。昔流行ったヘーゲルの弁証法哲学は、対立する両者が感情を排除し、理性で問題解決する前提ですが、今は感情のぶつかり合いとキャンセリングカルチャーで相手を否定することしかありません。

 ヘーゲルはじめ、近代社会を構築した思想家は極めて理性的で頭で冷静に考えた理論でしたが、一般市民は極めて感情に左右される存在で、彼らが民主主義の中心だとすればカオス化するリスクは否定できません。米連邦議会議事堂乱入事件もその一つでした。

 フランスで2017年に誕生した中道のマクロン政権は、保守・リベラル対立が意味をなさないことへの一つの答えでした。その検証はまだ行われていませんが、弁証法の呪縛からの脱却を意味していました。ただ副作用も強く、極右の国民連合よりさらに過激なゼムール運動を生みました。

 ハッキリしていることは極右の台頭に国益重視が含まれ、一考に値するものですが、ダイバーシティ効果が問題解決に不可欠なこと否定できません。ダイバーシティの利点はゼロベースで物事を考えられることです。今はこれが重要です。

 それがあるアメリカの強みの一つで、今は人類が共存するために答えを出す不可欠な条件です。それも何でもありのリベラルではなく、ダイバーシティは国益、主権統治、道徳性、公正さがなければ混乱を招くだけです。そんなことを1年の初めに考えています。