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 昨年9月から政府の最優先課題として取り組む学校でのいじめ対策の一環として、フランスでは今年1月から1000校を対象に「共感プログラム」が導入されます。教育現場で多発するいじめと自殺に対して、昨年9月以降、いじめ加害者の強制転校命令や最長10年の懲役刑など厳罰化が導入されています。

 この共感力、自制心を養うプログラムは、デンマークで実施され、成果を出しているもので、過去20年間に月に数回いじめを受けた11〜15歳の男子の割合は15%から6%に、女子は14%から9%にまで低下した報告があります。昨年、アタリ国民教育相(33)がデンマークを視察し、決定したものです。

 教師、生徒を対象にした同プログラムの目的は、人間同士の寛容さや思いやり、相手を尊重すること、精神的強さに繋がる勇気を持つことといった基本的な人間としての価値観を教えることです。人間は共存関係にあり、お互いを認め、他者を差別、排除しないことを共有することで、共感力の強化と自制心を習得するプログラムです。

 実は共感力は、欧米のビジネススクールで教えるリーダーシップ、マネジメントのコアスキルであり、今起きているウクライナやイスラエルの戦争でも問題解決に大きな影響があると考えられています。同情は上から目線で相手に惨めさを味わわせる可能性がある一方、共感は同じ立場に立って支援することで、人間関係構築に大きく役立つと言われています。

 共感を持つことを「その人の立場になって考える」と日本では言いますが、アメリカには「他の人の立場で1マイル歩く」という慣用句があります。他の人が経験していることを理解する能力であり、ある状況が他の人に何を感じさせたのかを感じることができるスキルで、その人の経験、課題、さらには思考プロセスをより深く理解することです。

 能登半島震災で、多くの人が家とライフラインを失い、暖を取れず、食べることもままならない報道が繰り返される中、その人たちに寄り添い、理解し、支援することに共感は欠かせません。一方、同情は、他の人に対して悲しみを感じること、他人の不幸を憐れむという意味もあります。

 この 共感と同情の英語の語尾「-pathy」は、ギリシャ語で「苦しむ」を意味する「pathos」に由来しています。これら 2 つの感情は似ていますが、いくつかの違いがあります。同情を感じている人は、他人の喪失が自分にとって何を意味するのかを完全には理解していない可能性があります。共感とは、自分自身の経験に関連して、他の人が経験していることへのより深いつながりを持つことです。

 教育現場での人格形成活動を通じて、教師たちは「自分がしてほしいように他人に接しなさい」というモットーを共有することがよくあります。生徒たちに同情心と共感力の両方を教えるには、モデル化を通じて行うことが有効と言われています。

 教室内の誰かが、親が離婚するなど喪失感を経験したとき、教師が同情的に反応するのを生徒が見たら、生徒も同じように反応するかもしれません。一方、共感を教えるには、多くの場合、教育者が声を上げて考え、生活の中で新しいスキルやストレス要因に苦しんでいる人に対して思いやりのある方法で反応する理由を生徒に説明することが必要です。
  
 職場でも共感力はリーダーだけでなく、同僚同士でも非常に有効なスキルです。それは1回教えれば習得できるものではなく、頻繁にトレーニングする必要があります。言語の習得同様、繰り返しの実践の中で、自然に共感し、適切な対応がとられる性質のものです。

 感情的な反応を教えるための最良の方法の 1 つは、良いロールモデルを示すことです。また、似たような状況を経験した人と感情を共有することで相互理解が深まります。

 世界中の弱小国を債務の罠にかけようとする中国は、かつて貧しかった頃の経験を引き合いに出して、貧困に苦しむ地上国に寄り添うポーズを見せながら、返済不能な規模の支援を行い、返済不履行を理由に湾岸施設などの支配権を獲得しています。

 これは共感力を悪用して、相手を手中に収めているわけですが、冷静に考えれば、中国が貧しさを心の底から学習しているのであれば、貧しい国への支援には返済不要な支援、技術供与、適切なガバナンスを教えているはずですが、そうではありません。

 では、共感力を鍛えるには何が必要かと言えば、一つは聞き上手になることです。一般的にはアクティブリスニングの手法を使い、確認と共感のフィードバックで相互理解を深めることです。さらに相手の置かれている状況を思い描くこと、問題解決のために同じ目標を共有すること、相手との違いを正確に把握すること、人間は多様な生き物であることを認めることなどです。

 共感力は海外駐在する人たち、職場がすでに多文化な場合、ジェンダーの多様化が進んでいる職場、人種や宗教など多様な価値観が存在する職場などでは、特に必須です。一般的に挫折経験のない優秀なエリートほど共感力が弱いとも言われています。

 共感力が高ければ、今の世界の厳しい状況を前にして、皆が自分が何ができるだろうと考えるはずです。何もできなくても何らかの形で戦争に苦しむ人々に寄り添うことができるはずです。その人の心が世界を変えることを信じたいものです。