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 アタル首相とダティ文化相

 フランスで発足した史上最年少の34歳のガブリエル・アタル新首相が率いる新内閣はフランス政治の右傾化を明確に示しています。マクロン大統領の従順な追随者として知られるアタル氏は、マクロン政権で最も頭痛の種と言われる議会の極右勢力を抑え込むための内閣人事の布陣を公表しました。

 過去2度の大統領選の決選投票を戦った国民連合(RN)のマリーヌ・ルペン氏はマクロン氏に敗北こそすれ、票差を縮め、2022年の国民議会選挙でRNは8議席しかなかったのを89議席に躍進させ、その勢いはマクロン政権最大の懸念材料です。親の代から反極右、反国家主義のアタル氏起用にはRN潰しが期待されています。

 内閣の右傾化は、中道のマクロン政権の特徴である中道右派と中道左派政党からのバランスのいい閣僚起用でしたが、今回は、目立ったところでは左派社会党出身はアタル氏と外相に就任した元交際相手のステファン・セジュルネ新外相くらいで、残りは右派系閣僚で占められています。

 フランスにおいて右派か左派かの違いの一つは、カトリックが運営する私立学校出身か、政府が管理する公立学校出身かですが、アタル氏自身はパリの有名私立校出身でアタル氏の後任となったウデラ・カステラ新教育相は子供を私立校に通わせており、就任以来、批判されています。

 同時にフランスの指導者が白人フランス人から人種の多様性にシフトしているのは明白です。そのシンボルは文化相に就任したラシダ・ダティ元仏法相・パリ7区区長で、彼女はモロッコ移民とアルジェリア移民の両親を持つアラブ系で、サルコジ政権で鳴り物入りで法相になった人物です。

 政治的野心のある者を次々に閣僚に起用したサルコジ氏自身、ハンガリー元小貴族の父親とギリシャ系ユダヤ人の母親のもとで生まれています。女性でアラブ系で野心満々のダティ氏の閣僚起用はフランスの多様性を進める追い風になりました。

 今回、首相に就任したアタル氏の父親は信仰を持たないユダヤ人、母親は元貴族の白系ロシア人でロシア正教徒です。同性愛を公表するアタル氏は5年間付き合ったセジュルネ氏(38歳=元大統領顧問)を外相に任命しました。

 多様な民族、多様な宗教、多様な性志向は、フランス政界では右派のRNのトップ、ジョルダン・バンデラ(28)でさえ、アルジェリア移民の血をひいています。今やアラブ系、アフリカ系出身者を起用するのは政治だけでなく、テレビメディアでも朝のバラエティー司会者までアラブ系が増えています。

 フランスは英国同様、欧州のアメリカと言われるほど多様な民族の集合体と言われますが、英仏とものアフリカ人を奴隷化した過去があり、アフリカ系、アラブ系、インド系への差別が消えたのは最近のことです。英国ではインド系のスナク首相、パキスタン系イスラム教徒のカーン氏など、旧植民地出身者が政治の中枢に起用されています。

 アメリカ同様の多民族国家をめざすフランス、英国ですが、アメリカとの違いは、アメリカが未だにキリスト教的価値観の影響が強いのに対して、英仏は伝統的宗教の影響は非常に限定的でリベラルだということです。この違いは歴史の長い欧州が伝統的価値観へのアレルギーがあるのに対して、アメリカはそれがないからともいえます。

 欧州のリベラリズムの行きすぎは、反動としてイスラム排斥、人種差別、LGBT差別など様々な社会問題を招いており、何でもありのリベラリズムが、一方でLGBTを擁護しながら、一方で保守的価値観(アタル氏の学校の制服復活)などの矛盾が浮上し、右傾化を抑えるよりアタル政権発足で右傾化が加速する恐れもあります。