富士通の英子会社、富士通サービシーズが英郵便局に1999年に提供した会計システムの欠陥が原因で、英国で700人以上の郵便局長らが現金を盗んだ横領罪などで起訴された同国史上最大規模の冤罪事件は、評価の高いはずの日系企業のグローバル市場での大きな汚点となりました。
16日には英議会で、同社のポール・パターソンCEOが証言し、被害者に賠償する「道義的責任がある」と認め、謝罪とともに被害者の郵便局長らへの補償にも真摯に取り組む意志を示しました。パターソン氏は富士通本体の執行役員も務めており、同社の欧州におけるサービス事業を統括する立場です。
富士通の時田社長も出席したダボス会議中にメディアからの質問攻めに合いました。メディアの批判には、発生したバグについての原因究明の説明がされていないとの批判があるわけですが、企業側は一方で同問題に真摯に取り組む姿勢を見せつつ、企業に不利になる事実には蓋をしたいという側面もあるでしょう。
同事件は逮捕され、冤罪で収監されたり、職を失ったり、自殺した局長ら及び、その家族の救済が最優先ですが、同時に日本を代表する電機メーカーの失態は、日本企業全体の世界的評価の失墜にも繋がる内容で、グローバル展開に避けられない日本企業にとって、定着していた評価を崩壊させる深刻なものというべきでしょう。
議会審議の結果次第では、最悪10億ポンド(約1570億円)の補償金を支払わされる上に、偽証の汚名まで着せられる可能性があると言われます。重厚長大産業より将来性があると言われるハイテク産業の電機メーカーが引き起こした失態は、一企業にとどまらない日本経済の斜陽を印象付ける躓きだったと言えます。
企業側は原因究明、再発防止策策定を急いでいるはずですが、ミスを組織や集団で吸収する日本独特の慣行は、徹底した不祥事対策に繋がらないケースが多いのも事実です。史上最悪の経営不振に陥った東芝は、アメリカの不良巨大企業を買収した経営判断ミスが企業を窮地に追いやりました。
今回も富士通が買収した英企業で開発された会計システムの不具合が原因だったことを考えると、富士通本体の管理に問題があったと追求されても弁解はできません。英政府も被害者の補償に本腰を入れる構えです。
国内よりはるかに多い地雷が埋め込まれているグローバルビジネスの現場で、リスクをマネジメントし、結果を出すには、特別な知識と経験が必要です。個別案件に一定の普遍性はないように見えますが
、経験よりもグローバルビジネスは日本の慣行の延長線上に取り組むのは危険です。
日本企業が過去に培った実力の基本は、全て日本人が中心になって行ったものです。グローバルビジネスはそれでは通用しません。たとえば日本人同士であれば、共通のコンテクストが共有され、高い信頼関係も前提なのだ成果を出しやすい環境にあります。
ところがグローバル環境で多文化の人々が協業する状態では、日本人同士で共有できる常識や信頼関係は望めません。容易に誤解が生じ、多くのリスクが見逃され、そもそも意思決定の権限や役割分担に曖昧さを持つ日本企業では責任の所在も明確ではありません。
今回の英国事例でも提供したシステムのバグについて個人やグループの責任を徹底追及するレベルにはいかないでしょう。伝統ある大企業であれば余計に古いマネジメントスタイルが想像されます。その一つが性善説です。グローバルリスクマネジメントで性悪説が常識です。
そのため、基本性悪説の欧米企業と異なり、基本的認識を切り替える作業が必要です。海外で買収した企業の製品を日本の自社ブランドで提供するには、それなりの覚悟も必要です。
発生する不祥事の多くにあるのは、コミュニケーション不足です。企業が衰退する時のほとんどが性善説に寄り掛かり、パートナー企業とのなれ合いでズブズブの関係に陥り、コミュニケーションが極端に不足する状態に陥っているのをよく見ます。
グローバルビジネスでは、見えないエアポケットも多く生じます。日産のゴーン元会長の事件では、グローバルに動く経営トップにチェックされていないブラックボックスが生じていました。つまり、グローバル企業には一段階上のガバナンスが必要ということです。
いずれにせよ、20年以上も経つ古い事件ですから、徹底した原因解明と再発防止で、多くのグローバル日本企業が今回の事例を教訓に進化することを願うばかりです。
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