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 能登半島地震に被災した電子部品を主力とする村田製作所は19日、稼働を停止している石川県穴水町の穴水村田製作所について、生産開始が5月中旬以降になるとの見通しを明らかにしました。発表では設備と建屋の補修に4カ月以上かかる見込みということで、石川県内ではほかに七尾市のワクラ村田製作所の再開時期が未定となっているようです。

 世界シェアNo. 1の製品を数多く供給する同社の海外売上比率は90%以上で、まさに日本企業の先頭を走るグローバル企業です。今回地震が襲った石川県の2つの工場では家電向けのノイズ対策部品やスマートフォン用基板などが生産されており、生産が止まる場合の他産業のダメージは計り知れません。

 同社は、サプライチェーンの混乱を回避するため、ワクラ村田製作所は被害の少ない石川県能美市か富山市の工場での代替生産を検討中とし、穴水村田製作所も代替生産へ向けた調整を進めているとしています。同社は石川、富山、福井の3県にあるほかの10工場で順次生産を再開していますが、代替生産が進むと思われます。

 村田製作所のリスク発生後の対応は迅速で適切と思われます。彼らが国内よりリスクの多いグローバル展開で養ってきたリスクマネージメントが生かされていると見られます。最新のリスクマネジメントでは、リスク対応マニュアルの選択肢にプラン3までの対応策を準備すべきとあります。これはコロナ禍の経験、ウクライナやイスラエル紛争、気候変動で、ますますん重要さが増しています。

 というのも製造業に限らず、停電による通信網の切断を含めリスクの連鎖が、想定外の規模のリスクに繋がる例が多いからです。そこで思い出すのは1995年1月の阪神淡路大震災で被災した神戸製鉄所工場(現在の神戸線条工場)への対応プロセスです。同社も世界に製鉄製品を大量に供給するグローバル企業です。

 縁あって高校の先輩が当時の工場責任者だったことから、詳しい経緯を本人から聞かされ、リスクマネジメント、特にリスク発生後の対応で多くの教訓を学びました。彼は地震発生後の壊滅的被害状況を受け、最初はパニックに陥った後、死ぬ気になって完全に捨て身で対応する覚悟を決め、全従業員にもそれを伝えたそうです。

 彼はまず、最初に被災した全従業員の安全と生活確保を最優先に取り組み、部下にも指示を出したと言います。彼の中には「企業は人なり」との考えがあり、従業員あっての会社という意識が強く、従業員の協力なしに再建は不可能と思ったからと言っていました。

 その後、従業員が再建の意思を固めてくれたことで、現状把握に努めた結果、同工場が供給している特殊製鋼製品が世界の車のブレーキ部分で使用され、供給が止まると世界の自動車産業に深刻な被害をもたらし、ひいては世界経済にも深刻な影響をあることが判明したそうです。

 そこで部下が強く懸念を表す中、自社の他工場では対応できないものに関して、他の鉄鋼メーカーに対して半世紀にわたって培った技術を開示し生産をお願いし、供給を止めない決断をしたそうです。ビジネスセオリーではありえない決断でしたが、結果的に多くの顧客が再建後、戻ってきたそうです。

 さらに社長が現場を訪れ、被害の大きさを見て再建に疑いを持たれたにも関わらず、彼は「やらせてください」と願い出て、社長が「じゃあ、やってみろ」とその意思を尊重してくれたことだったと言います。社長は「本社ができる支援はすべて行う」と約束して工場長に全幅の信頼をしたことが再建に繋がった要因の一つだと言っていました。

 このケースでは、製鉄所の心臓部の炉の火が消えたことが被害で最も大きかったわけですが、想定以上の速さで炉に火を入れることができ、復旧できたことを全員が奇跡と感じたそうです。神戸製鋼は自社の経験から東日本大震災や今回の能登半島地震で見舞い支援金や物資を積極的に送っています。

 再建が従業員1人1人の強い意志に委ねられたことや、リーダーの捨て身の決断は、NHKのプロジェクト召任眈匆陲気譴泙靴拭従業員を下僕のように使うブラック企業ではできなかったことでした。

 私はグローバルリスクマネジメントを専門に25年以上、多くの事例を扱ってきましたが、激動する世界では絶対不可欠なスキルの一つです。ただ、性善説の日本では意識の高まりが欧米ほどにはなく、日本企業はリスクに弱いとも言われています。

 一般的に、スウェーデン、スイス、シンガポール、ニュージーランドなどがリスクに対して比較的強いとされ、これらの国々では、安定した経済、強力な社会制度、効果的な政府の機能、そして自然災害への備えなどが挙げられています。中でもガバナンスは今最も重視されています。

 その意味で神戸製鋼再建の成功は、ガバナンスがしっかりしていたことが主な要因かもしれません。ITやハイテク産業は、そこが弱いという見方もあります。昔ながらの会社に対する従業員のロイヤリティを強調する大手製造業は、上下関係が強く、逆にIT系は会社と従業員が対等の関係にあるエンゲージメントが重視されます。

 日本は過渡期ですが、エンゲージメントの比重が大きくなっていることは確かといえます。自然災害の復興では個別案件が大量に発生するため、柔軟性が求められ、現場のリスクに近いリスクオーナーの役割が重要なため、エンゲージメントが極めて重要です。

 グローバルビジネス経験を積む村田製作所のような企業が増えることで、日本経済が強靭になることを期待したいものです。