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 大統領候補者選びの戦いが続くアメリカのトランプ前大統領は、選挙演説で広島と長崎への原爆投下を決断した当時のトルーマン大統領について免責特権があったため実行できたとして原爆投下を引き合いに出して大統領には免責が認められるべきだとの主張を展開しました。

 日本には衝撃的発言ですが、一考に値するのでしょうか。昨年は広島のG7で首脳が原爆記念館を訪れ、その悲惨さを実感してもらったばかりです。

 発言はトランプ氏が、共和党の大統領候補者選びの第2戦、東部ニューハンプシャー州の予備選挙を前にした20日夜、州内最大の都市、マンチェスターで支持者を前に演説したときのものです。トルーマン大統領が日本への原爆投下を決定できたのは、大統領に免責特権があったからとの理屈からでした。

 トランプ氏は現在も2021年の国会議事堂襲撃事件の首謀者として係争中ですが、大統領には免責特権が適用されると訴えて連邦控訴裁判所で争っています。民主主義政治で政治指導者にどこまでの特権を与えるかは大きな議論です。

 トランプ氏は広島、長崎への原爆投下は「決していいことではなかったが、戦争を終わらせた」との認識を示しました。昨年は理論物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーが最初の核兵器を開発し「原爆の父」と呼ばれるようになった過程を描いた映画「オッペンハイマー」が公開されました。日本の20万人を超える犠牲者の惨状への描写がないと日本内外から批判されています。

 トランプ氏の原爆認識は、アメリカで一般的に流布されている原爆投下の正当性を主張する彼らしい浅知恵を感じますが、アメリカの保守派には説得力を持つかもしれません。

 理由は、対中貿易戦争、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの無差別攻撃、北朝鮮のミサイル開発、イランの戦争への参戦危機など、意思決定の早い専制主義体制の国の攻勢に対して意思決定に時間の掛かる民主主義国家が劣勢に回った近年の教訓があるからです。

 ウクライナのゼレンスキー大統領にバイデン米大統領が大量の武器供与を含む莫大な支援を約束しても、議会で反対に合えば、約束は履行されない、あるいは遅れたりしています。特に外交においては迅速な意思決定が求められるケースが多く、専制主義陣営との勝負に民主主義の弱点が露呈しています。

 しかし、トルーマンが日本への原爆投下を決定した背景には、いろいろなことが言われており、例えば、敵国日本蔑視の当時のアメリカの風潮から、トルーマンが猿に近い日本人を核兵器実験対象にしたという説もあります。国の指導者に与えられる免責特権が大きいほど、個人の無知無能が大きなリスクを招く可能性があります。

 トランプ氏は大統領時代、多くの無知を露呈しました。特に新型コロナウイルスへの軽視は内政の大失敗と言われ、2020年の大統領選挙の敗北にも結び付いています。指導者の免責特権は個人の能力への依存度が高いため、国を左右する高いリスクが伴うものです。

 建前上、民主主義で内実は専制主義のロシアでは、プーチンの決断が全てであり、反対意見は警察権力によって封殺されています。イスラエルのネタニアフ首相の強権政治によるガザ市民の大量虐殺や、人質解放が実現できていないことに対して政権交代を叫ぶ運動が増しています。

 トランプ氏が主張するレベルでの免責特権を大統領に与えるのであれば、議会か監査委員会が大統領の権力乱用を監視し、交代させる仕組みを作る必要があるでしょう。それは内政と外交では異なる視点が必要でしょう。

 ただ、民主主義陣営の弱点が露呈し、一方でロシアや中国を支持するグローバルサウスの国々が増える中、特にアメリカの意思決定プロセスの脆弱性には、何らかの改善が必要でしょう。無論、無知で高い見識を持たない政治家を選ばないことが基本にあるのも確かですが。