フランス西部ブルターニュ半島ヴァンヌ郊外に住む85歳を超えたレイモンさんは、飼い猫が見守る中、畑仕事に余念がない。約400坪ある土地で花、野菜、果物を作って40年が経つが、農家になったことはない。作りすぎた野菜や果物は近所に配り、時にはスーパーに卸したりもしている。
そんな姿を見るレイモンさんも娘婿は「彼を見ると羨ましい。自分が大好きな庭いじりをしながら8人の子供たちが孫を連れて遊びにやって来ると、畑で一緒に遊んでいる。「自分もあんな老後が過ごせたらと、ここに来るといつも思うが、無理な気がする」と彼は言う。
彼は実は、フランスでは名門のエンジニア系グランゼコール(エリート養成専門大学院)を出て、ハイテク企業営業部長をしている。高級車に乗り、南仏など数か所に別荘を持ち、ヴァンヌにはヨットも所有している。義父のレイモンさんは対照的で中学しか出ておらず、16歳から工場で働いた。
そんな義父の老後に、スーパーエリートが憧れる構図は興味深い。労働者階級出身のレイモンさんは地味で無口、大した昇進もないままに低賃金のまま退職し、すでに25年が経つ。8人の子供を育て、今は妻と一匹の猫と、趣味の畑仕事で暮らしている。
レイモンは狩猟や釣りの趣味もあり、隣町に住む弟と出かけることも多い。取ってきた鳥やウサギ、魚は基本、自分でさばいて食べている。家父長制度が残る保守的なブルターニュでは、男は現金を稼ぐために会社で働く一方、古代から続く狩猟や釣り、畑を耕すことも怠らず生きてきた。
ブルターニュらしく、夫婦ともに町の中心にある教会には欠かさず通い、まるで中世の時代から続くフランスの伝統的生活を垣間見るようだ。フランスでも多くの家庭が親子兄弟の関係が希薄になる中、義父を羨ましがる娘婿も、実家に帰るのは1年に1回あればいい方だ。
レイモンさんは信仰熱心で質素倹約しながら生きてきたので、金への執着は全くと言っていいほどない。日が昇ると起き出して、コーヒーとパンを食べたらさっそく畑に出る。10時の休憩でビスケットを食べ、昼はしっかり肉を食べる。夕食は自分で育てた野菜のスープだけの時もあり、完全に日が沈む8時頃には就寝する。
自宅は数十キロ先まで見渡せる高台にあって、ブルターニュ特有の変化の激しい天気で、小雨がやむと雲の間から太陽が大地を照らす。フランスの美しい丘陵地の変化を家の窓から眺めていると飽きることはない。時間はあまりにもゆっくり流れ、大地に身をゆだねるという言葉がふさわしい。
レイモンはボランティアにも余念がない。カトリック教会の神父が所有する畑の管理をし、遠い巡礼地での障害を持つ巡礼者の世話は40年以上続けた。自分の好きな畑仕事も隣人の役に立っている。ミレーの名画「落ち穂拾い」のように日没に感謝の祈りを捧げる農夫の夫婦の姿を彷彿とさせる生活。
フランスでもとっくに忘れられたような生活を送り、金で幸福を買うことのなかったレイモン夫婦は、人生の本当の意味での勝ち組かもしれない。

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