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 今年は世界で重要な選挙が追いつぐ「国政選挙の年」です。それもウクライナへのロシア侵攻以来、東西冷戦の枠組みが壊れ、さらに中東の火薬庫イスラエルで近年にない規模の戦争が起き、世界は未曽有の混乱が続く中で、どんな政治リーダーを選ぶのかが問われる極めて重要な選挙の年です。

 専制主義の国々はロシアのように表向き選挙を実施しても、独裁者の影響が圧倒的ですが、民主主義の国々の選挙は重要です。1月に台湾総統選挙を終え、今月はインドネシア大統領選挙、3月はロシア大統領選挙、4月には韓国総選挙、4月から5月にかけてはインドの総選挙があります。

 6月にはメキシコの大統領選挙、同月の欧州議会選挙も気になるところです。そして11月には今後の世界情勢を大きく左右するアメリカの大統領選挙を控えています。これだけの選挙が重なる年も珍しいと言えますが、企業と異なり、有権者が選ぶ選挙です。

 忘れてならないのは、冷戦以降の国政選挙で、既存の権威あるメディアの選挙予想が当たったことはないことです。たとえば、2016年のアメリカ大統領選でトランプ氏が人気の高いクリントン氏に競り勝った時も、既存メディアはトランプ追い落としに躍起で、選挙結果を受け入れられませんでした。

 今はSNSの時代で、言論の自由が認められた国々では有権者の選挙行動に大きな影響を与えています。マスコミが入手する従来型のデータの分析は通用しなくなっています。

 結果的に有権者個々人の認識が選挙に反映されるという意味では、誰もが自由に意見を言える民主主義は成熟しているようにも見えます。そこで提供されるマスコミの情報は限定的になりつつありますが、一方で大したリーダーが世界的に見ても見当たらないとの声もよく聞かれます。

 イデオロギーから経済中心に移行した冷戦以降、高い見識や人格、人望より、生活を豊かにし、企業は利益を出せる環境づくりで結果を出してくれる人物が選ばれるようになりました。荒唐無稽な政治理念を掲げるリベラル派も時代の変化への対応に緩慢な保守派も苦戦するのが今の時代です。

 そこで激動する国内外の情勢に対処できるリーダーを選ぶ基準が問題となっています。個人的には知識や処理能力といった外的能力は教育のおかげで底上げされてきたと思いますが、人間性は置き去りになっているという印象です。

 結果として大統領になってはいけない人物が大統領になり、国をとんでもない方向に導く事態も発生しています。ここでは政策の中身を論じる前に、国家のリーダーとして資質を考えておきたいと思います。

 私は何よりもまず、政治リーダーになりたい人間の動機を最重視したいと思います。その基準は国民のためと自分のためという目標のバランスです。英語でアンビションという言葉がありますが、いい意味では「大志を抱け」というクラーク博士の有名な言葉があります。

 一方で日本語では野心と訳されることの方が多いようです。本来、野心はいい意味では使われません。悪い意味とは自己中心という事で、他を蹴落とし、実力以上の評価を得るための人脈を築き、野心を実現しようというものです。日本では無私という精神が重視され、野心は対極にあるものです。

 人間には公的に尽くして多くの人々に感謝されたい欲望と、自分を愛するナルシズムが存在します。このバランスが大志の場合は前者が重視され、後者の比重は小さいのに対して、野心は後者の比重が前者を上回るという事です。

 政治リーダーは往々にしてナルシストになりやすく、権威主義に陥るのが常です。国家のために働くという意味では公が私に先立っているように見えますが、実は動機は自分にあるというケースは少なくありません。権力を持つ者の最大のリスクです。

 さらに世界的にリスクが高まる中、政治家にはリスクを感じ取る感性が必要です。ビジネスの失敗も感性不足は見えない主因といわれます。リスクマネジメントは理論だけでなく感性が必要というのは一般的に知られていることです。

 さらに冷戦以降、先細りした政治理念という意味で強い信念が必要です。信念が希薄な人間は権力を握ると自分が見えなくなり、ナルシズムが頭をもたげ、人間としての規範が失われるリスクがあります。信念を最後まで貫くのは容易なことではないからです。