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 今から10年前、デフレ脱却にあえぐ日本では、専門家から3つの課題が口を揃えたように示されていました。1つは生産性向上、もう一つは賃金アップ、3つ目は早急なグローバル人材育成でした。それは今でも変わっていませんが、残念ながら、大半の企業経営者は3つの課題を頭で理解しつつも自分事として受けとめられていません。

 課題が見えているのに、そこに焦点を当て、優先順位を決める決断ができないのには日本人独特の事情もあります。それは理念優先型ではなく、帰納的で経験値依存のマインドにとどまっていることです。それに間違うことへの極端な恐怖心もあります。

 一神教でもない日本で演繹思考はありえないわけですが、やることは分かっているのに一歩を踏み出せない決断力のなさには商機を失います。上海で企業を立ち上げ10年間育ててきた日本人の友人が、いつもいう話は「目の前にチャンスがあるのに動かないのが日本人だ」と言うことです。

 石橋を叩いているうちに、その橋を渡る意味もなくなり、商機は去っていくケースが急増し、不要な慎重さが衰退を招いています。失敗を恐れないことで知られるアメリカ人は失敗することより、失敗から学び、次にどんな手を打つかに繋げることが重視されています。背景には圧倒的なポジティブ思考もあります。

 政府の圧力で労使ともに賃金アップに舵を切ったわけですが、物価上昇分で計算すればプラス成長にはなっていない。20年前、1部の専門家は日本の賃金は先進国の中でも高いという人もいたが、今、それを言う人はいません。

 もう一つの事情は、いつまでたっても世代交代が緩慢に事です。古い人たちの保身もあるでしょうが、組織が能力ではなく人間関係で成り立っている場合、人を適材適所に配置できない事情もあるでしょう。

 なぜ、自分事として重要な課題について受け取れないのかといえば、日ごろ、目の前の仕事に追われ、長期的視点を持てない事情もあります。経験主義では自分が経験したことのないことを指導できないという事情もあるでしょう。生産性軽視の経験しかない上司は何を指導したらいいか分かりません。

 今、きわめて日本の状況は深刻です。今、ビジネスの世界で求められるダイバーシティ、主体性、エンゲージメント、モチベーション、グローバルマインドは、今の若者が最も苦手なことです。つまり、人材育成が直面するビジネス課題に取り組む最優先事項です。

 グローバルスタンダードは、部下を尊重し能力を引き出し、育てることができる上司が評価され、そんな会社に人が集まっていることです。上司への斟酌は時代遅れです。

 結論からいえば、部下を育てるための中間管理職以上をどう育てるかです。20代から30代の社員の研修でもヒューマンスキルだけでなく、コンセプチュアルスキルも養成しておく必要があります。