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 ドイツで18日まで開かれたミュンヘン安全保障会議では、ウクライナは米議会の支援予算の承認が遅れている問題に危機感を露わにしました。アメリカの支援が滞ればロシアの攻勢を阻止できなくなり、実際、東部アウディイウカからの撤退を余儀なくされています。

 この紛争でウクライナを最も支えてきた米国は、11月の大統領選を控え、支援策も政治の道具と化している感があります。さらに開戦から2年が経ち、支援疲れも広がっており、3月の大統領選を控えたプーチン露大統領に有利な風が吹いているようにも見えます。

 ミュンヘン会議で欧州各国の軍事費拡大は一定の評価を受けました。北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長は2年前の開戦当時、「東西冷戦終結後の枠組みを根底から覆す出来事」との認識を示しましたが、欧州連合(EU)内には、支援を巡り、今でも温度差があります。

 ストルテンベルグ氏は今月14日、NATO加盟31カ国中18カ国が今年、国防費を国内総生産(GDP)比2%とする目標を達成する見通しを示しました。これは過去最大規模の総国防費増加で、欧州加盟国の今年の国防費は総額3800億ドルとなる見通しです。

 2023年時点でNATO加盟国のGDPに占める国防費の割合は、ウクライナの隣国、ポーランドが4%に近づいているのを最高に米国、ギリシャ、エストニア、リトアニア、フィンランドと続き、2%を超えていたのは31カ国中、10カ国でした。

 例えば、フランスは当初予測で2024年に国防予算にGDPの1.94%を支出する予定で、早くても2025年までは2%に達しないと予想されたのが、今年、2%に達すると発表され、劇的増加をもたらした加盟国の1つです。

 ストルテンベルグ氏は残る13カ国に対しても、米国との不公平感がぬぐえない現実の払しょくのため、圧力をかけています。

 しかし、軍事費を増やしてもウクライナ支援を含め、軍事力に繋げるには時間軸があります。米国とNATOに長年依存してきた欧州の武器備蓄不足は深刻で、独最大の防衛企業ラインメタルのアーミン・パペルガーCEOは最近、欧州が自国を完全に防衛する準備が整うまでには10年かかるだろうと述べています。

 欧州各国の不安は、自国防衛も怪しいのに、ウクライナ支援が長期化し、ウクライナに供給される武器弾薬が増えれば、自国の防衛も十分に行えないという懸念が広がっていることです。

 東西冷戦終結後、アメリカに依存してきたNATOの現実は、トランプ前米大統領が厳しく批判したように軍事費を抑えながら、経済発展する平和ボケが続いてきたということです。つまり、ウクライナ紛争ではじっめて自主防衛意識が目覚め、やっと武器弾薬の備蓄を増やす入り口に立ったレベルです。

 ウクライナがロシアからの進行を食い止めているのは、欧米支援が大きいわけですが、ロシアの最大の誤算は、ウクライナ国民の国を守るための強烈な愛国心あってのことです。それに比べれば「民主主義を守る」という大義を口にしながらも、ウクライナ国民の精神とは雲泥の差です。

 無論、弾がなければ精神だけでは相手に勝つことはできませんが、欧州には弾も精神もない状態です。武器弾薬の十分な備蓄に戦争は待ってはくれません。相手は反政府勢力の指導者の暗殺までして戦う意志は高まっています。

 備えあれば憂いなしはリスクマネジメントの基本中の基本です。米国が支援から手を引けば、ウクライナという国が消滅し、ロシアに併合されるのも時間の問題でしょう。