パリ国際農業見本市(Salon International d'agriculture)は、フランス国内最大の農業見本市。今月24日から3月3日まで開催されます。個人的にも30年前から通うワクワクする一大イベントです。世界最強のグルメの国を支える食材が大農業国で作られていることを実感することができるからです。
フランスを旅行したい日本人にお奨めの見本市で、その場でフランス料理を満たす食材、ワインなどを買うこともできます。今年は長いコロナ禍で低迷した見本市も完全復活しましたが、暗雲が立ち込めています。理由は農家が政府の農業政策に抗議で全国規模のデモが行われているからです。
農業経営者団体全国連合(FNSEA)と若い農業者たちは農業見本市の前夜の抗議デモに加え、初日の大統領府が呼び掛けたマクロン大統領と農業従事者との対話集会はFNSEAが参加を拒否したため、中止になりました。
実は農家の抗議デモはフランスのみならず、スペイン、ベルギー、ドイツなど欧州全体に広がっています。農家は化学肥料や殺虫剤などの農薬の使用制限や休耕地の確保、欧州連合(EU)内での規制の実施状況のバラつきから、加盟国間の農産物価格が一定でない現状などがあります。
加えて、EU基準からははるかに規制の緩いウクライナの農産物が流れ込み、しかもこれまでは関税もかけていないため、消費者は安価なEU域外からの農産物を購入し、地元農家に被害を及ぼしています。そこにコロナ禍、ウクライナ紛争によるエネルギー価格高騰、インフレが重なりました。
一方、政府はEUの掲げる2050年まで脱炭素をめざすグリーンディール政策を打ち出し、結果的に農家を苦しめてきました。欧州の農業は一方で脱炭素のための農業機械使用の制限や遺伝子組み換え作物の追放、健康被害をもたらす農薬の使用制限等で、農業生産コストはかさむばかりです。
しかし、毎年の熱波到来や干ばつという異常気象も農家を苦しめており、それでもフランスなどは高い環境政策目標を掲げ、世界の優等生を目指してきたわけですが、限界に達したという事です。
EUの欧州委員会のフォンデアライエン委員長は今月6日、欧州議会の演説でEU理事会および欧州議会との調整を進めてきた持続可能な植物保護剤(PPP)の使用に関する規則(SUR)案を行政当局に撤回するよう求めたと述べ、さらに2040年までの達成目標からも農業分野の目標は削除されました。
実はSURは欧州議会が昨年11月に否決し、当時、議会の右派と極右派は、主要な農業組合と同様にこの否決を歓迎していました。環境保護政党側は議会が「私たちと私たちの子供たちに暗く困難な未来を約束する道を選んだ」と遺憾を表明しました。
現時点での制定は難しいと判断、2030年までEU各加盟国が化学肥料の使用を50%に削減することを骨子とした準備中の法案もとん挫し、EUの環境政策は今、後退を余儀なくされています。
リベラルメディアの仏日刊紙ルモンドは「EU全体が環境問題に逆行したのは初めて」と指摘し、実現に痛みを伴うグリーンディール政策に対する自国民(特に農民)の強い抵抗に遭い、規制緩和を求める加盟国首脳が増えたと指摘しました。
さらにルモンドは「大多数の加盟国は規制を緩め、議会は右派や極右による支配を許している」と環境対策の方向転換を批判しましたが、国家の食生活を支える農家を批判するわけにはいきません。
筆者は30年以上、EUの動向を見守ってきましたが、彼らの問題の一つはEU官僚主義です。頭のいいエリートで固める欧州委員会が机上で決めた政策は、どれも現実離れし、英国のEU離脱の一因となりました。農業は大都市のエリート官僚の対極にある存在で、農家の声は反映されにくいのが現状です。
本来、各加盟国が持つ農業及び環境政策に関する権限を委譲されたEUは、過去20年間は共通農業政策(CAP)である欧州農業の発展と支援を目的に生産性や効率性を追求してきました。生物多様性保護のため農場の4%を休耕地とすることで環境にやさしい農業を推進したのも、その一環でした。
ただ、移行に必要な経済的存続条件への配慮が不足していたのは事実です。問題は農民に決定権が与えられていないことです。例えば農産物の価格は小売業、流通業者が農家に押し付けており、農家には価格の決定権はありません。結果、生産コストを下回る価格で損出を出したりしています。
農業見本市は、そんな問題を抱えた状態で開催されました。マクロン2期目の政権は、与党が過半数の議席を持たず、マクロン氏は国民の声を聴いて政治を行うと約束しましたが、どうやら十分に聞く耳を持っていないように見えます。
現時点での制定は難しいと判断、2030年までEU各加盟国が化学肥料の使用を50%に削減することを骨子とした準備中の法案もとん挫し、EUの環境政策は今、後退を余儀なくされています。
リベラルメディアの仏日刊紙ルモンドは「EU全体が環境問題に逆行したのは初めて」と指摘し、実現に痛みを伴うグリーンディール政策に対する自国民(特に農民)の強い抵抗に遭い、規制緩和を求める加盟国首脳が増えたと指摘しました。
さらにルモンドは「大多数の加盟国は規制を緩め、議会は右派や極右による支配を許している」と環境対策の方向転換を批判しましたが、国家の食生活を支える農家を批判するわけにはいきません。
筆者は30年以上、EUの動向を見守ってきましたが、彼らの問題の一つはEU官僚主義です。頭のいいエリートで固める欧州委員会が机上で決めた政策は、どれも現実離れし、英国のEU離脱の一因となりました。農業は大都市のエリート官僚の対極にある存在で、農家の声は反映されにくいのが現状です。
本来、各加盟国が持つ農業及び環境政策に関する権限を委譲されたEUは、過去20年間は共通農業政策(CAP)である欧州農業の発展と支援を目的に生産性や効率性を追求してきました。生物多様性保護のため農場の4%を休耕地とすることで環境にやさしい農業を推進したのも、その一環でした。
ただ、移行に必要な経済的存続条件への配慮が不足していたのは事実です。問題は農民に決定権が与えられていないことです。例えば農産物の価格は小売業、流通業者が農家に押し付けており、農家には価格の決定権はありません。結果、生産コストを下回る価格で損出を出したりしています。
農業見本市は、そんな問題を抱えた状態で開催されました。マクロン2期目の政権は、与党が過半数の議席を持たず、マクロン氏は国民の声を聴いて政治を行うと約束しましたが、どうやら十分に聞く耳を持っていないように見えます。
コメント