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◀パリのマンガ・カフェ

 

パリのオペラ座近くに学習塾で知られる「AAA」があります。日本人駐在家族の子供たちの補習だけでなく、フランス人に日本語を教え、最近ではマンガ養成講座まで始めたようです。在仏の日本の若者と日本趣味のフランス人の若者のたまり場になっている「AAA」は、注目を集めるマンガにも触手を伸ばしたと言えます。

 

日本に次ぐマンガ消費国といわれるフランスでは、日本のマンガ、アニメ、コスプレ、それにオタク文化が、凄い勢いで若者に浸透しています。マンガ・カフェ、マンガ専門書店、マンガ家養成学校などが急増し、最大手書店フナックのマンガコーナーは、日本の書店と見まがうような状態です。

 

フランスのマンガであるバンド・デシネは、日本のマンガの登場で押され気味ですが、「日本はマンガのハリウッド」という見方には、少々、疑問を呈しています。ハリウッド映画は、制作過程で世界に売り込むことが前提となっている場合が多く、そのために莫大な制作予算を投じて質の高い作品を作っています。

 

ハリウッドはアメリカらしく、映画において明確なグローバル戦略を持ち、巨大産業に成長してきました。ところが、日本のマンガ産業は、ハリウッドのほどのグローバル戦略があるとは思えません。宮崎アニメは海外での配給権をディズニーに委託することで安易な道を取っていますが、ジブリ自体が、凄いグローバル戦略を持っているわけではありません。

 

もう一つ問題を感じるのは、マンガやアニメ業界で、実際にクリエイティブな仕事に携わっている人たちの人件費の低さの問題です。映画もアニメも最終的には、いかに優秀な人材を集めるかが全てです。マンガ家やアニメーターをめざし、有名なマンガ家や監督の下で働く若者が、信じられないような労働条件で働いていることです。

 

本人たちは、それが一人前になる唯一の道と思い込んでいるのでしょうし、オタクのような人間は対して厚遇されることも求めないのでしょうが、それではいい人材を集め、持続的に高い質の作品を生み出し続けることは困難です。

 

建築事務所にもあるような、日本の異常な徒弟制度は、結局、多くの才能を踏みにじりながら存在している不健全な状態です。ハリウッドは競争も激しい代わりに、才能のある人間には徹底して投資する風土があり、大きな仕事をさせています。

 

それに20年近く、フランスや英国、ドイツの若者と付き合ってきた私からみれば、日本のオタク文化は、単に面白がられているだけで、その病理的側面まで歓迎されているわけではありません。マンガやアニメがオタク文化とセットで輸出されている状況では、けっして日本はマンガのハリウッドにはなれないと思います。