ヨーロッパで階級制度が最も強いと見られているのは英国ですが、日本人にとって、階級社会というのは言葉で、なんとなく理解できていても、実際に英国社会で生活したり、職場で英国人と一緒に働いたりしなければ、なかなか実感が湧かないし、実際、どう対処すべきか困惑する人も少なくありません。

 

たとえば、階級社会と経済力は密接な関係にあるわけですが、王制を革命で崩壊させたフランスでさえ、国民が所有する全財産の4割が、社会の上部約5%の人びとに帰属していると言われ、貧富の差は西ヨーロッパ一と言われています。

 

ハリー・ポッターを書いたJ.K.ローリングの資産が、ある年、エリザベス女王を抜いて200番以内に入ったというニュースを読んだことがあります。ローリングは作家としては歴史上、最も原稿料を稼いだ人物とされていますが、エリザベス女王の前にローリングを含め、200名の金持ちがいるあたり、英国らしいといえそうです。

 

さて、英国人は一般的に階級を受け入れていると言われています。「あってあるもの」ということですが、人間関係そのものは階級間を問わず、フランクに付き合えると言われています。フランス人は階級制を否定しているくせに、階級間の溝は相当大きなものがあります。

 

ところで労働者階級という言葉、英語ではワーキングクラスとかブルーカラー、フランス語ではウブリエなどと言われますが、普通は単純労働者を指します。ところが英国では、一生働かなくてもいい人以外は、労働者階級と呼ぶ見方があります。高額所得者でも働く必要がある人は労働者階級になるわけです。

 

なんでそんな話をするかといえば、欧米人の多くが、働かないでいい状態に憧れ、人生のゴールにしているからです。かつての貴族のような生活を理想にしているわけです。働くこと自体が好きで、生きがいや充実感を労働に求めやすい日本人には分かりにくいことかもしれません。

 

ある日本の会社の社長が私に言いました。「欧米人のように60歳でリタイヤし、あとは好きなことをしていいと言われても、暇をもてあまして困るだろう」と。あるフランスの友人は「日本人の多くは労働者階級のメンタリティしかなんじゃないの」と批判的です。労働を個人の意志に反した不当なことの強要と捉えがちな西洋人には、勤勉の美徳は分かりにくいかもしれません。